アマゾンのこうした話には、もはや驚かない。私たちは毎週のように、同社の新たな買収話を耳にしている。つい最近には、ホームセキュリティー機器企業のリング(Ring)を10億ドル(約1060億円)で買収することに同意したと報じられた。
従来の業界的な視点から評価しなければ、アマゾンの買収は至って合理的だ。アマゾン・ウェブ・サービス(AWS)を皮切りに、同社は興味深い新ビジネスモデルを模索する力を発揮してきた。この手法は、業界内の競争や参入障壁をめぐる従来型思考を超えるものだ。同社のエコシステムには、これから参入する全ての「業界」で活用可能なものが何かしら存在するため、アマゾンは優位な立場に立てる。
競争は「脇道」から
アマゾンが進出するさまざまな業界の既存企業は、手痛い教訓を学んでいる。競合企業は必ずしも、自分たちが想像しているような会社ではない。企業の指導者たちは業界内の大企業の動きに注目しがちだが、他行の動向しか見えていない銀行役員は、自分たちの苦境に間もなく気づくだろう。
フィンテックのスタートアップに注目している銀行役員は、自分は周囲より先を行っていると思っているかもしれないが、こうした人々でさえ間もなくトラブルに見舞われるかもしれない。競合企業は現在、脇道から忍び寄っている。銀行業を本業とせず、最も予想できなかった分野から参入するのだ。今まで競争は業界内のみに限られていたとしても、今後はそうではない。未来の闘いは、顧客の“Jobs To Be Done(JTBD)”、つまり「片付けるべき用事」に基づいた土俵で繰り広げられる。
顧客の「片付けるべき用事」とは
考えてみると、私たちは銀行に情熱を持っているわけではない。本当に大切なのは、預金が安全に保管され、必要なときに使えることだ。これこそ、金融サービスにとって主要なJTBDの一つであり、人が銀行を使う一つの理由でもある。