「キャンパスの芝生に寝ころんで研究テーマを何にしようか考えていた。当時はiPhoneが発表される少し前で、モバイルの画面はどんどん小型化が進んでいた。けれど、大きな画面にもメリットはあるはずだ。折り曲げ可能で自由自在に形を変えられるディスプレイがあれば、人々の暮らしを根本的に変えるものになると思った」
インターネットの黎明期の中国に育ち、北京の清華大学を2005年に卒業。カリフォルニアに留学後、今や企業価値30億ドル(約3200億円)を超える企業「Royole」を2012年、深圳で創業したリウは、成功する起業家に必須の"Right Time, Right Place(正しい時期に正しい場所で)"という条件を具現化した人物だ。
「担当教授はテキサス・インストゥルメンツの元CTOだった人。ディスプレイのアイデアを話したらやってみろよって言われた。その頃のスタンフォードはグーグルの創業者らを送り出したばかりで、新たなイノベーションを生み出す熱気にあふれていた。世界中から若い才能が集まり、次の時代を作ろうとしていた。まさに理想的な時期と場所に居た」
「Royole」が誇るテクノロジーは、薄さ0.01ミリのフルカラーの有機ディスプレイ──玉ネギの皮のように薄いフィルムに、半導体を組み込んで発光させる技術のベースには化学や物理学、そして電子部品の製造に関する膨大な知識の蓄積がある。1983年に江西省に生まれたリウは四人兄弟の末っ子として育った。
「三人の姉たちは中国の一人っ子政策が始まる以前の70年代生まれ。みんな化学や数学が大好きで、その影響で中学の頃に物理学に目覚めた。12歳の頃にはアインシュタインやジェームズ・クラーク・マクスウェルの本を読むようになった。この世界を作りだす原理を解き明かしたいと思っていた」
高校に入ると中国政府が開催する理系の全国大会にチャレンジし、一年生の時に三年生を負かした。その後、化学と数学分野で中国トップの成績を収め2000年に清華大学に入学した。
「物理学を学ぶことも考えたが当時はインターネットの普及期で、物理や数学の知識も活かせる電子工学部に進むことにした。そこでプログラミングを学びつつハードウェア製造の知識も身につけた」