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2018.03.12 07:30

世界最薄OLEDを生んだ「中国一の秀才」が米西海岸で描いた夢


シリコンバレーと深圳の融合


卒業後、スタンフォードに進んだリウは2009年にフレキシブル・ディスプレイをテーマに博士論文を執筆。その時点で既に、世界最薄のディスプレイのコンセプトは完成していた。

「すぐにでも起業したかったけれど、当時は2008年の金融危機の直後だった。その後、3年間はニューヨークのIBMに務めた」

そして機が熟したのが2012年。深圳の投資家から100万ドルの資金を得、5人でRoyoleを立ち上げた。

「そのうち3人は自分と同じ清華大学からスタンフォードに進んだメンバー。そこに深圳の製造分野で経験を積んだ2名が加わり、シリコンバレーの知見を深圳で具体化するプロジェクトが始まった。深圳では政府のサポートも得られたが、ハードウェア製造には膨大な設備投資が必要だ。最初の資金はあっという間に消えていきそうになった」

時間との戦いの中で、ようやくプロトタイプを完成させたのが2014年の7月。「ラボのテーブルをみんなで囲み、スマホに繋いだディスプレイから映像が浮かんだ瞬間、ついにやったぞと思った」


Royoleのコア技術はフレキシブル・ディスプレイとフレキシブル・センサーテクノロジー。0.01ミリの極薄有機ディスプレイを2014年に発表後、世界初の折り畳み可能な3Dヴァーチャルモバイルシアター(2015年)やフレキシブル・ディスプレイで全面を覆った曲面カーダッシュボード(2016年)などを発表。

翌年にはIDGキャピタルや創新投資集団から1億7200万ドルを調達。社員数を一気に100名以上に増やしプロトタイプの製造を行った。2016年の家電見本市「CES」で、世界初の全面が曲面ディスプレイで覆われたスマートカーダッシュボードを発表。折り曲げ可能なディスプレイやキーボードを披露し、Royoleの名を世界に轟かせた。

2017年9月のシリーズDでは中国銀行を筆頭に中国農業銀行、平安銀行らから8億ドルの資金を調達。深圳郊外の工場では年間5000万台のディスプレイが生産可能な製造ラインが間もなく完成する。

Royoleのディスプレイはスマートフォンに限らず、ウェアラブルやスマート家電、業務用のタッチスクリーン等、様々な分野に適用可能。チャイナモバイルや中国南方航空、中国のスポーツ衣料大手の李寧(Li Ning)とも製品化に向けた最終調整が進んでいる。

「Royoleの強みはスタートアップとして、次世代のプロダクトにフォーカスして技術を磨き上げてきたこと。そして、世界のどの企業よりも早くフレキシブル・ディスプレイを発表したことで、様々なメーカーやブランドとのコンタクトが生まれ、今後数年の需要とトレンドを正確に把握できたことだ」
 
わずか5名で始まった企業が数年のうちに1000名を超える規模に成長した。「清華大学の校訓は"言葉よりも行動を"。そして、スタンフォード大学のモットーは"自由の風を吹かせろ"。この2つの信念が今の自分をつくっている」

取材・文=上田裕資 写真=セオドア・ケイ

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