そのうち過去最大規模の被害となったのは、日本の取引所のうち最大手の1社、コインチェックが1月26日に公表した仮想通貨NEM(New Economy Movement)の流出だ。被害額は5億NEM(約5億ドル)以上に相当する。
(仮想通貨やトークンへの投資は非常に投機的であり、市場には規制がほぼない。投資を検討する場合は、元手資金を全て失う可能性があることを十分認識しておく必要がある)
価格低下は一時的か
外部からの不正アクセスによってNEMが流出したとするコインチェックの発表を受け、NEMの価格は当然ながら下落した。1ドル以上で取引されていた価格はその後、1ドル前後で推移している。
ただし、盗難被害によってNEMが取引停止に追い込まれるといったことがない限り、この仮想通貨に特別に大きな変化が起きることはない。もちろん、ハッキング犯自身もそうなることは望んでいないはずだ。コインチェックは被害に遭ったNEMの送金先のアドレスをすでに確認しており、取り戻すことも可能との見解を示している。価格の下落が一時的なものにとどまった理由は、この点にあると考えられるだろう。
時価総額でトップ(約2000億ドル)のビットコインの価格も同時に下落したが、すぐに値を戻している。
過去にも大きな被害
仮想通貨が流出した例で最もよく知られているのは、2014年2月に起きた当時最大規模の取引所、マウントゴックスからのビットコインの流出だ。世界中のビットコインの取引量のうち、一時は70%を扱っていた同社は、ハッキング被害に遭い85万ビットコイン(4億5000万ドル相当)を失った。この額を現在の価値に換算すれば、およそ100億ドルになると推計される。
マウントゴックスが被害を受けて経営破綻した当時から現在までに、仮想通貨市場は大きく成長している。時価総額で10番目に大きいNEMの発行枚数は、約90億枚。ハッキング被害に遭ったのはその約6%に当たる。だが、仮想通貨の時価総額ランキングなどを公表しているcoinmarketcap.com(コインマーケットキャップ・ドットコム)によれば、仮想通貨の時価総額は、全体でおよそ5800億ドル規模。そのうちNEMが占める割合は約1.5%だ。NEMの価格が元の水準に戻らなかったとしても、市場全体がそれほど大きな打撃を受けることはないと見られる。
およそ1か月前には、韓国・ソウルを拠点とする仮想通貨取引所ユービットに対するサイバー攻撃があったばかりだ。ユービットは総資産の17%に当たる約4800万ドル相当のビットコインを失ったとされる。さらに、ロイター通信によれば、同取引所を利用していた顧客が保有する仮想通貨資産の評価額は、25%減額されることになるという──投資家たちにとっては、ひどい話だ。