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烏合の知(医療・紛争・事件の最前線)

Orawan Pattarawimonchai / shutterstock.com

開発中の認知症治療薬の途中経過成績が不調だったことから昨年12月に株価急落の憂き目を見たエーザイ。その顛末は、「株価を急落させた、エーザイのアルツハイマー薬開発」に書いた。

そもそも日本では2011年7月を最後にアルツハイマー型認知症の新薬は登場していない。そして現在、アルツハイマー型認知症の新薬開発停滞は全世界共通の問題でもある。

アメリカ研究製薬工業協会が2016年7月に公表したアルツハイマー型認知症治療薬開発に関する報告書では、同協会会員の製薬企業が1998~2014年に臨床試験をおこなった新薬候補127成分のうち、規制当局から製造承認取得を得るに至ったのはわずか4成分、確率にして3.1%に過ぎない。

この4成分とは、エーザイが1999年に発売した世界初のアルツハイマー型認知症治療薬・アリセプトを含む、現在ある4種類の治療薬そのものである。

一般的に薬の開発では、ヒトでの臨床試験に入ったもののうちおよそ10%強が実用化に至る。これ自体がかなり低確率と言えるのだが、ことアルツハイマー型認知症に関してはその3分の1という超低確率なのだ。

なぜか。実はアルツハイマー型認知症の新薬開発にはいくつかの大きな壁が立ちはだかっている。

いまだ原因不明なアルツハイマー型認知症

まず、第1の壁として、アルツハイマー型認知症の原因が完全には特定されていないことがあげられる。現時点でその原因は、「アミロイドβ」や「タウ」と呼ばれるたんぱく質が脳内に異常蓄積し、神経細胞を死滅させることで起きると考えられている。だがその因果関係は明確なエビデンスが得られていない。

病気の進行とともに患者の脳内にこれらのたんぱく質の蓄積が進むため、「これが原因だろう」と推定されているに過ぎない。しかし、実は根本の原因は別にあり、こうしたたんぱく質の蓄積は、その結果併発的に起こっている可能性も否定できないのだ。

もっとも原因が完全に特定できていなくても、薬の効果を見ることができる明確な指標があれば、治療上は大きな問題とはならないことも少なくない。

例えば一般によく知られている高血圧症の約9割は、原因がはっきりしない(医学的には本態性高血圧症と称されるものである)。ただし、原因がよくわからなくとも、服用した薬で血圧値が低下すれば、効果があると判定される。いわば結果オーライである。

ところがアルツハイマー型認知症では、高血圧症のような明確な指標がない。そもそも診断自体が、患者の物忘れの状況などの医師の問診に加えて、記憶テストや簡単な計算などで認知機能を測定する「認知症スケール」の合計点数で診断を下す。

治療薬の効果判定の一部も、この認知症スケールで評価している。血中成分濃度や血圧値のように、数値基準で測れない以上、他の病気と比べて診断や薬効評価にあいまいさが含まれることは避けられない。つまりアルツハイマー型認知症の新薬開発は、正体のわからない相手に効果のわからない手段で立ち向かう手探りの戦いなのだ。

文=村上 和巳

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