農林水産省の調べによると、イタリアの農業生産額はEU第3位(2014年)。しかも1980年代半ばに関連団体ができるほど有機農業にこだわりがあり、スローフードやアグリツーリズムという考え方も盛んだ。例えば生ハムやチーズで有名なパルマの場合、街自体が美食のイメージをもたれるほどブランド化が進んでいる。
しかしイタリアの食文化の底力は、もっと小規模な生産者にある。本来なら地産地消で終わってしまう小さなブランドをサポートし、世界へ広める役割を担うのが、2004年にトリノで生まれた“イタリア食材のセレクトショップ”の「イータリー」だ。
そもそもイタリアでは地元ごとに小さな生産者がいて、独自の食文化をつくってきた。しかし後継者不足で、ビジネスが立ち行かなくなる事例が増えてきた。普段何の気なしに食べていた地元生産の食材が、突然手に入らなくなる……。それは食を愛する人々には大問題だ。
その一例がパスタ。イタリアにグラニャーノという街がある。かつてパスタの名産として名を馳せたが、一時期衰退してしまったことがあった。そこでイータリーが、この地の代表的な生産者のひとつである「アフェルトラ」を支援し、昔ながらの良質なパスタづくりを支えている。そのようなプロジェクトを、イタリア全土で行っているのだ。
カンパニア州の「アフェルトラ」。名物はハンドメイドでつくられる乾燥パスタ、フリッジ
さらにイータリーでは2000を超える小規模生産者とも取引をしており、小さな街で作られたオリーブオイルなどが、世界へと広がるチャンスを得ている。イータリーで取り扱われることで世界に名が知られれば、自分たちの仕事に対する自信も誇りも生まれる。それは後継者問題を解決する糸口にもなるだろう。
さらにイータリーでは“新しい食文化”をつくる試みも始めている。そもそもイタリアはワイン文化であり、ビールはのどの渇きを癒すものという考えだった。
ピエモンテ州の「バラデン」。ほとんどの素材を自社で栽培しており、しかもビールづくりに必要な電力は太陽光発電でまかなう
しかしピオッツォという小さな村にあった「バラデン」というクラフトビール生産者をバックアップすることでファンを増やし、食中酒としてビールを楽しむという新しい文化を定着させつつある。
こういった取り組みが生産者のやる気を高め、イタリアの地方はますます魅力を増すのである。