パスクアーリは25年前から、自分と同じような考えを持つ世界の「食通」たちと協力し、食の革命とオリーブオイルの追求に尽力している。きっかけは、13世紀に建てられたルネサンス様式のビラ(別荘)を友人の勧めで購入したことだった。現在では、ビラ・カンペストリ・オリーブオイル・リゾートの要となっている建物だ。
オリーブオイルに魅せられて
「以前は雑誌やマーケティングの仕事をしていた。1976年に、eBayの紙版のようなフリーペーパーをつくった。これが大成功を収め、幸運にもインターネットが台頭する前の1987年に高い評価額で事業を売却できた。当時39歳だった私は、何か別のことがしたかった」とパスクアーリは振り返る。そこで1989年、彼はビラとその周辺の土地を買い取った。
購入したのは14棟の荒れ果てた建物と病気にむしばまれたオリーブ林、それに広さ数エーカーの土地に植えられたりんごとさくらんぼの木だった。メインの建物の改修には2年かかったが、1991年に観光施設として開業した時には、既に予約でいっぱいだった。「マーケティングの経験があったから、改修中から予約受付を始めていた」と彼は言う。常連客で最も多いのはアメリカ人、次がにカナダやイギリス、北部ヨーロッパからの客だ。
改修中、パスクアーリは地元の大学や農家からオリーブオイルについての学び、オリーブオイルのとりこになった。同じくオリーブオイルに魅せられた娘の1人、ジェマは農学者になり、リゾートの運営を手伝いながらオリーブオイルづくりを監督している。ビラ・カンペストリでは年間2トンのオリーブオイルを生産している。
リゾートのレストランでは地元産の食材を使い、テーブルにはもちろんオリーブオイルが用意されている。「注ぐ前にオイルが入ったガラス瓶を手で温めると、香りが立つ」と、パスクアーリがやって見せる。さらに彼は、「オールマイティな」オリーブオイルはないと続ける。たとえば、サラダのドレッシングには軽めのトスカーニ産オイルがいいが、パスタにはより重めのスペイン産がいい。
ちなみにパスクアーリによれば、世界のオリーブオイルの57%はスペイン産で、次がイタリア(その大半がプーリア州産)、ギリシャとモロッコだ。彼は生産者または専門店でオイルを購入することを勧めており、欧州連合(EU)に対してラベル表示に関する規制の強化を望んでいる。「モロッコで加工されトスカーナ地方で瓶詰めされたオイルに、イタリア産というラベル表示がなされている」と彼は言う。また、オリーブオイルが「圧搾」によってつくられているとよく誤解されている。しかしこの20年、遠心分離機でオリーブをオイル、水と残りカスに分離する方法で生産が行われている。