キャリア・教育

2018.09.09 20:00

これからの時代「HOW」より「WHY」が重要な理由


青砥:いや本当に脳を知る勉強は本当にただひたすら楽しくてしょうがないです。僕が自分の人生を振り返って思うのは、「Why」の答えを大人が提供する必要はない、ということです。そうではなくて、むしろ子どもに負けないくらいの「Why」をもち、「Why」を考える材料を一緒に見つけに行ったり、共に「Why」をあーでもないこーでもないと考えたり、実践したり、そうやって子どもの疑問を大事に抱きしめ、一緒に並走できる、応援することが大人の大切な役割なのでは、と考えています。

例えばゲーム好きな子どもなら、どんな瞬間に最大限の楽しさを感じるのか、好きなゲームと嫌いなゲームにはどんな違いがあるのかを追求してみる。一緒にゲームを構想してみる創ってみる。実体験に伴う好きの延長に、「why」の探究をさせてみる。この脳の使い方を癖にできる子はとっても頼もしいですし。これからの時代向きですね。

黒川:現在の日本の教育が「How型」から「Why型」に変われば、いずれ企業の体質も変わるでしょう。企業人の中には、ハーバードのビジネススクールから学べば会社が変わると考えている人もいるようですが、そこで学ぶのは事例の分析、戦略であっても、これはあくまで評論です。大事なのは実体験なのです。「How」だけを追求するのではなく、自らの心の内にある「Why」に目を向けてほしいですね。

青砥:そうですね。理論だけ知っていてもなんの役にも立ちません。脳科学も同じです。実体験に伴った「Why」の探究先に学術を求める、そんな人を応援する大人や仕組みが整うと、日本は大きく変わりそうですね。

──最後に一つお伺いします。日本の教育が転換点を迎え、ITによる革新が加速する今、私たちは何を武器にこの時代を生き抜いていけばよいのでしょうか?

黒川:やはり個々人の感性だと思います。第一、知識はコンピュータに勝てなくなります。ですから、入学試験の偏差値で人を判断してる組織は、残念ながらあまり役に立たないケースが多いとも聞きます。自ら行動を起こし、目で見て、手で触れる。そしてつかみとった感覚が唯一無二の武器になるのではないでしょうか。失敗から学ぶ文化です。これが賢慮を形成していくと考えます。

青砥:その感覚は、イマジネーションにもつながると思います。今後AIと共存していくに際に必要とされるのは、人間にしかない圧倒的な想像力です。これは生まれつき誰にでも備わっており、最近はクリエイティビティを培う神経回路も発見されつつあります。

これは先ほどのUse it or Lose it ではないですが、そのクリエイティビティを発揮する脳回路を使う習慣があるのか、ないのかが大きなポイントとなります。作文、絵画、音楽、企画案、何をとっても、学びの段階で無駄なネガティブなフィードバックは単に人にクリエイティブな脳を使わせない方向に仕向けるだけです。

もっとよくなる方法やその可能性を示すことと、5段階評価の1をつけることは全く別の話です。創造的な行為に対し、学びの段階で、評価によって人の創造性の意欲を削ぐことはあってはならないと思います。そこまでする評価の価値があるとは思えません。

むしろ創造的な行為を繰り返せる環境、教育現場の設計が求められるでしょう。感覚や創造性も、スポーツや他の学びと同じように、体験の積み重ねの中で培われていくものですから。

黒川:そうですね。感性は、アナログな経験によって身につくもの。言語化できるデジタル分野の学びとは全く異なります。

青砥:AIは、言語化できるもの、パターン化できるもの、0、1で表すことができるものにおいて、人が到底及ばないレベルの機能を発揮していますし、ますます加速するでしょう。だからこそ、我々の言語化できないもの、パターン化できないもの、ランダムで曖昧なもの、なんとなくな感覚的なもの、そういったものに価値が生まれてきます。しかし、そんな何となくの捉え所のない感覚も、明確な脳の機能です。その機能に目を向け、うまく付合うことがこれからの時代ますます求められるでしょう。

だからこそ、自分の心やガッツという曖昧なものにも目を向けること、そこを大切にして行動していくことも、もっともっとこれから大切になっていくのだと思います。

黒川:人工知能のように従う大企業のイエスマンや、意志を持たないトップ、体験より知識を重視する「How型」の教育。日本には課題が山積していますが、解決の糸口は見えています。自分が本当にやりたいことは何なのか。自らに問い続け、答えが見えたときにアクションを起こす行動力を培う教育の発展に期待しています。


黒川 清◎東京大学、政策大学院大学の名誉教授。1962年3月東京大学医学部卒業。1963~1967年まで同大学医学部第一内科に勤務。医学研究科大学院にて医学博士取得。1969~1983年在米、カリフォルニア医師免許、米国の内科と腎臓内科専門医などとして活躍。UCLA医学部内科教授を辞して、東京大学医学部助教授として帰国。その後、東京大学医学部第一内科 教授、東海大学医学部長、政策研究大学院大学教授などを経て現職。紫綬褒章、フランスのレジオンドヌール勲章シュバリエ、旭日重光章など受賞多数。主な著書に『世界級キャリアのつくり方』『イノベーション思考法』など。

青砥瑞人◎DAncing Einsteinファウンダー CEO。日本の高校を中退後、モデルを経て留学、UCLAにて神経科学部を飛び級卒業。帰国後、ドーパミン(DA)が溢れてワクワクが止まらない新しい教育を創造すべく「DAncing Einstein」を設立。脳x教育xITの掛け合わせで、世界初のNeuroEdTechという分野を研究し、いくつも特許対象のアイデアをもつ。最新の論文から導き出された脳の働きを理解したうえで効果的な教育方法などを研究開発、企業はもちろん学生や教師も巻き込んでいる。

*独立行政法人日本学生支援機構「協定等に基づく日本人学生留学状況調査」

構成=華井由利奈 写真=藤井さおり

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