王道のエリートコースを歩み医学の道を究めた黒川氏と、高校中退後フリーターを経験した青砥氏。対照的な二人の出した答えとは……。3回の連載を通して、人間の脳と人生をめぐる2人の考察に迫る。
──2015年度は約8万5千人もの若者が海外の大学で学んでいます*。お二人も研究のため海外に渡られていますが、なぜUCLAを選ばれたのでしょうか?
青砥:成蹊高校を中退してフリーターをしていた21歳の頃、周囲の友人は順調に大学に進学したり、就職先が決まり、「自分は一体今何をしているんだろう」と「自分は本当に何がしたいんだろう」と深く自問自答した時期がありました。ただ、どこまで問いかけても出てくる答えは、幼少期から続けていた大好きな野球だったんです。でも、選手になるのは現実的ではない。他に関われる道はないかと探し、ふと思い出したのが小学校時代に監督に教わった精神修行でした。
黒川:先ほど「10歳までに人生が決まる」という話をしましたが、やはり青砥くんも幼少期にプレーしていた野球が原点なのですね。
青砥:今でも野球の夢はよく見ます。苦しいのが多いですが(笑)ぼくの脳に深く刻まれていますね。小学校の頃の監督は広島商業高校という古豪出身で、普段から「丹田に意識を集中して呼吸し心を整えるするように」と言われていました。小学校の頃から高校になるまで、それを人知れず信じやり続けていました。僕は、高校でピッチャーを務めていたのですが、その精神統一を試合前にしっかりした時としていない時に自分の感覚値としてパフォーマンスに大きな違いを感じており、とても不思議で、なんでだろうと深く疑問に思っていました。
その当時の疑問に対して、猛烈な興味が湧いたのをとてもよく覚えています。それまでは全く読書の習慣がなかったのですが、書店で関連書籍を探し、メンタルトレーニングの本を何冊も読みました。僕の体内で何がおきて、なぜあの精神統一みたいなことがパフォーマンスを向上させるのか、それを知りたくて知りたくて。
黒川:でも、脳科学の内容まで細かく記載されたメンタルトレーニングの本はなかなかないでしょう?
青砥:そうなんです。メンタルに脳が深く関わることは書いてあるのですが、肝心の脳がどうなっているからパフォーマンスを高めるのか、ということはどこにも書いてありませんでした。その謎を知るためにどこでどんなことを学んだら良いのかとかなり色々調べた結果、たどりついたのがUCLAだったんです。
黒川:海外の大学が意欲的な若者たちを魅了する理由は複数ありますが、まず一つ挙げられるのは学部教育でしょう。大学入学時に文系・理系の区別があるなどは日本の大学ぐらいですが、プラトンの『国家』や、ホッブズの『リヴァイアサン』などを読み、学生同士が白熱した議論をする。
世界が変わり未来の予測が難しい今必要とされるのは、ただ知識を教授するのではなく、そうした議論に代表される、教師と学生が学び合う「場」としての大学だと思います。
──今後日本の教育が変わるなら、どのような方向へ進むべきでしょうか?
黒川:読書によって「How to」の知識を得るのではなく、「Why」と向き合うこと、そして実体験することが大切だと思います。プロセスを経験せず、ただ情報を覚えるだけでは知識は自分のものにはなりません。人の真似も意味がない。
また、多くの「古典」「哲学」「歴史」からの学びは大きいはずです。人間の知恵であり「知」の本質を学べるのです。
青砥:実体験は自己の脳にエピソード記憶を刻み、それに付随する感情記憶まで保存します。この感情記憶は人の心にもガッツにも通じます。自己のエピソードに対して、なぜだろうという、感情を伴った脳が機能します。これがまさに好奇心の原点です。実体験ないことにこの好奇心もつことはなかなか難しいはずです。
親や教育者は、この実体験とそれに伴う疑問やその理由への探究を大切にすることが求めれれますね。しかし、現状は理由を問われても「そんなことは考えなくていい」と跳ね返してしまうケースをよく目にします。それでは、子どもの探究心、素晴らしい問う力、そのための脳回路を停止させてしまうことに繋がります。生物の脳は、「Use it or Lose it」の原則に則ります。使われれば回路が育み、使われないと消失することを表しています。
黒川:野球を脳科学に結び付けた青砥くんはまさに、好きこそものの上手なれを実体験したんですね。青砥くんのように“好き”を出発点に「Why」を突き詰める学び方なら、勉強はただひたすらに楽しいものになると思いますよ。