ビジネス

2018.01.11

「現場の声」が全てを教えてくれる|セイノーホールディングス社長

田口義隆 セイノーホールディングス 代表取締役社長(photograph by Hironobu Sato)

「周りから見れば、パン屋が寿司を売り始めたようなものかもしれない」

2014年、セイノーホールディングス社長の田口義隆は企業向け金融サービス「セイノーフィナンシャル」の立ち上げを発表し、業界内外を驚かせた。「一運送会社がなぜ銀行業を?」と尋ねると、田口は「よく聞かれます」と微笑んだ。

「金融工学に基づいた設備投資等の大規模な融資は、銀行にしかできない。けれども、我々は物流業を通して、お客様のお取引の状況を肌で感じることができる。その情報を基に与信審査をすれば、取引先に対して小回りの利く融資が可能になる。我々にとっての金融は、勝負どころで銀行からお金を借りられずに困っていたお客様の、さらなる成長に寄り添うための手段なんです」

一見、突拍子もなく見える施策も、その行動原理は「物流に縁があり、顧客の繁栄に繋がるかどうか」で統一されている。会社の姿勢として掲げる「ノーと言わないセイノー」は、単なる言葉遊びではないようだ。顧客のニーズに適えば、加工、コンサル、買い物代行、市場動向チェック、ベンチャーとの事業創造……文字通り、何でもトライしている。

こうした新しい取り組みのアイデアは「常に“現場”の声から生まれる」と、田口は言う。

「現場で“暑い、重い、痛い”を経験した人間は、言葉の重みが違う。苦労と、一人の無力さと、コミュニティの支えの温かさを肌で感じることで、人としての器ができてくるんです。そして同時に、お客様や社内の仲間に対して『貢献したい』という意識も芽生える。現場で培える“現場力”こそが個人の成長、会社の成長のカギを握っています」

現場力の底上げを図るため、田口はかつて大胆な施策を打ち出した。それは「新卒全員に1年間、現場でセールスドライバーを経験させる」というものだ。当時の社内では「優秀な学生が入ってこなくなる」と大反対を受けたが、田口はその必要性を信じていた。

ふたを開けてみれば、この施策を導入してから現在までの20余年間、セイノーに入社する新卒社員の偏差値レベルが下がったという事実はない。また、入社後3年間 “大卒新入社員の離職率0%(14年入社社員)”となるなど、離職率が極めて低い状況に、田口も胸をなでおろしている。

「どんなにキレイな設計図を作っても、絶対にうまくいく保証はない。思うようにならないこともすべて肯定しながら『まず、やってみる』ことが大事。そして、なるべく明るくやること……そうするとね、運をつかめるんです」
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文=西山武志 写真=佐藤裕信

この記事は 「Forbes JAPAN 日本の起業家 BEST100」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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