ビジネス

2018.01.11

「現場の声」が全てを教えてくれる|セイノーホールディングス社長

田口義隆 セイノーホールディングス 代表取締役社長(photograph by Hironobu Sato)


話の流れの中で「経営者として『人の心をつかむ秘訣』は何かあるか」と切り出した。田口は、悪戯好きな少年のように声を潜め「期待値を超えること」と答えた。人間の「感動」には一定のメカニズムがある。期待値よりも結果が上回れば、感動が生まれる。その感動で心をつかむのだ。ここで田口は大人の顔に戻り、「一方で」との語を挟む。

「我々はインフラだから、局所的に期待値を超えたサービスを提供してはいけない。各所でサービスの質にバラつきがあると、不満に繋がってしまう。お客様の期待には応えつつも、『その対応は全国で水平展開できるか、長く続けられるか』は常に検討し、必要ならば仕組みに落としていく─会社として“期待値コントロール”をすることが重要です」

今年4月、セイノーはこの“期待値コントロール”をテクノロジーで最適化した、新たなサービスをリリースした。GPS機能を利用して配達車両の位置情報を提供する「いち知る」だ。法人向けの配達を利用している顧客は、「いち知る」を使うことでウェブから配達車両の位置を確認できる。配達車両の現在地をリアルタイムで表示し、配達状況を可視化することによって顧客の期待値をコントロールしている。

この「いち知る」には、もう一つの目的意識がある。真面目なドライバーほど、配達が遅れていると焦って、早く届けようと無理をしてしまう。その焦りは、事故のリスクを生む。しかし、「いち知る」によって顧客の期待値コントロールができていれば、ドライバーの安心につながる。「『いち知る』は顧客のためのサービスでありながら、大事なドライバーの命を守るための策でもある」と語る。

「成長するための糧も、これから向き合うべき課題も全部、現場が教えてくれます。何か挑戦しようとして、100人に無理だと言われたら、チャンス。それを可能にすれば、世界がまた進歩するのだから」

たぐち・よしたか◎1961年、岐阜県生まれ。85年、西濃運輸に入社。同年に西濃コスモスアメリカに出向し、88年セイノーアメリカ社長就任。89年に帰国し、その後は西濃運輸の総務部長、副社長、社長の役職を経て、2005年より現職。趣味はトライアスロンと活け花。

文=西山武志 写真=佐藤裕信

この記事は 「Forbes JAPAN 日本の起業家 BEST100」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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