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2017.12.25 07:00

「移民危機」はどこに? 米国への不法入国、過去最低を記録


米上院司法委員会のチャック・グラスリー委員長ら一部の共和党上院議員は先日提出した500ページにわたる移民制度改革法案では、反移民団体が望む法律をほぼ完全に網羅しつつも、ドリーマーに対しては一時的な救済策しか記載されていない。

米国民の安全に実質的な脅威を与える人や犯罪者だけでなく、すでに労働力に組み込まれている人も強制送還の対象となる。米国土安全保障省によると、そのうち少なくとも70%は米国に10年以上滞在している。

私が話を聞いた米シンクタンク、世界開発センター(CGD)の上級研究員を務める経済学者マイケル・クレメンスは「何百万人もの違法労働者を強制送還すれば、米経済や労働状況が改善するという経済的な証拠はない」と語った。

「経済学者のアドリ・カッサブリとジョバンニ・ペリの研究では、こうした労働者を強制送還すれば、米労働者に悪影響が及ぶことが示されている。レストランや酪農など多くの業界では、移民労働者を合法的に雇うことが困難だからだ」

カッサブリとペリの研究からは、強制送還率を増やして国境警備を強化すれば、未熟練労働者市場が弱くなり、米国生まれの未熟練労働者の失業率が増えることが分かっている。移民が多いと、未熟練労働者の存在により雇用者側の労働コストが下がり、仕事の数が増えるためだ。

クレメンスは「1980~90年代にドリーマーが米国に入国したときのような、メキシコ含む各国からの移民の波は一度限りのこと」と話す。「メキシコの人口動態や経済が変化し、この流れは二度と繰り返されない。経済的には、ドリーマーを強制送還する正当な理由は存在しない」と語る。

私は先日、米連邦議会を訪問した際、議会事務所を訪れていたドリーマーの小さな一団に出くわした。何歳のときに米国に来たのかをそれぞれ尋ねてみると、1~4歳との答えが返ってきた。

乳幼児のときに入国した子どもたちを全く知らない国に送り返すのは、米国の国益にならない。米国への不法入国者数が記録的に低かったことをCBPが報告したばかりだというのに、前代未聞の法的措置を取るほどの移民危機が起きているという主張には説得力がない。

編集=遠藤宗生

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