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2017.12.22 08:30

自動運転の「目」を作るエンジニア社長


ホールが手を加えたライダー機器は、車の屋根から64本の回転するレーザー光を発するものだった。その画期的な工夫によって、ついに車は“視力”を与えられた。

「それによって私たちの目指す走行が可能になった」と、前述のホイッタカーは言う。彼の率いるチームは、ホールのライダーを採用し、07年に200万ドルの賞金を獲得した。2位に入ったスタンフォード大学のチーム(リーダーは後にグーグルの自動運転車プロジェクトを立ち上げるセバスチャン・スラン)も、ベロダイン製のライダーを使用していた。

現在、グーグルやウーバー、フォード、トヨタ、そして数多くのIT系スタートアップで自動運転車のプロジェクトを率いる先駆者たちは、ほとんどが「DARPAチャレンジ」に挑戦した経歴を持つ。その多くがホールの顧客になっている。「ある種の優れたアイデアというのは本当に有用で、世界を変革するのです」と、ホイッタカーは言う。

ベロダインの本社はサンノゼに置かれているが、ホールが業界の最先端を走り続けるために最も重視しているのは、そこから60キロほど北に位置するアラメダの研究開発ラボだ。冒頭に紹介した住居兼仕事場にもほど近い、一見すると資金潤沢な高校の工作室のようなその場所で、コンピュータ科学や電気工学、物理学、光学などの博士たちが自社のライダーの性能を向上させている。

ベロダインのライダー機器は車に360度の視野を与え、それを3Dの図像に変換する。搭載した車は昼夜を問わず半径200メートル以内のすべてを「見る」ことができ、高速で走行する間にも遠方の危険を察知して、衝突を避けることができる。昨年はこれが数千台、売れた。今年は数万台に増やす計画だ。定価はレーザー16本のモデル(見かけはホッケーのパック)で約8000ドル、64本のモデルで8万5000ドルとなっている。

「これほど高度なものは他になかった」と、フォードの自動運転車部門の幹部、ジム・マクブライドは言う。

ライバルも登場しつつある。クアナジー社は16年に自動車部品メーカーのデルフィなどから9000万ドルを調達し、低コストのソリッドステート式ライダー機器を作り始めた。3600万ドルを集めたルミナー社は、自社のライダーセンサーがどの競合製品にも負けない視程と画像の質を持つと主張する。

ベロダインは普及品市場のライバルに対抗するために回転機構を持たない新製品を量産する一方、高級品市場のライバルをはねのけるためにより視程の広い製品を準備している。現在のベロダインが掛け値なしのマーケットリーダーでいられるのは、大量生産をする企業が他にないことも一因だ。

「自動運転車の開発者はこぞってベロダインを手に入れようとする。なぜならそれが、いかなる量でも調達できる最も手頃な製品だからだ」と、ディープマップ社のマーク・ホイーラー最高技術責任者は言う。彼はグーグルとアップルを経て、自動運転車のためのマッピングサービスを開発する現在の会社に移った。

ホールはライバルたちを歯牙にもかけていない様子だ。「ライダーを大量生産する方法を知る者が私以外に誰かいるかね? 気がつけば私は、この産業全体をつなぐ重要な輪になっていたんだ」

自動運転車に関わる全員がライダーをひいきにしているわけではない。その代表格が他ならぬマスクで、テスラ車にはカメラとレーダーとソナーを組み合わせて、十分な感知能力を与えるとしている。だがテスラを除外しても、ベロダイン製品の市場は依然として巨大だ。今や何千台もの自動運転車が試作され、テストされている。いつ頃消費者向けの販売が始まるのかは明確ではないが、調査会社IHSマークイットの予想に従うなら、25年には60万台が販売され、その後の10年間も年率43%以上で増加するという。

言い換えるなら、35年までに合わせて7600万台の自動運転車が、市街地やハイウェイを行き交うようになるということだ。ベロダインのジェレン社長は、今後数年間の業績の伸びが少なくとも年率300%になると予測する。

すでに530人の従業員を抱えるホールがメガファクトリーに注力するのもそのためだ。そのガラスで覆われた巨大工場は、今年初めにサンノゼで操業を開始した。そこでは200人ほどの工員が、なくてはならないマイクロエレクトロニクス部品や光学部品を組み立て、忙しげに最新のライダー機器を作っている。

だが今後1年半の間に、同じ工場内で生み出されるロボットがそうした作業を引き継ぐことになるだろう。ホールと配下のエンジニアたちは、無人化された製造工程の最終形態を、極秘に検討しているところだ。彼はまだその詳細を明かさないが、サンノゼの工場がすぐに年間100万台の生産能力を持つだろう、とは明言する。

「それだけの数を作るには自動化するしかないんだ」。ホールはそう語り、少し間を置いてこう付け加えた。「ライダーの市販品などより、私にはこっち(工場)の方がずっと興味深いよ」。

文=アラン・オーンスマン 翻訳=町田敦夫

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