父親の逝去にともない、300余名からなるロックフェラー一族の第4代当主に選ばれたディビッド・ロックフェラーJr.。彼が長年熱心に取り組んでいるのが、海洋環境保護だ。
現在、大々的な遺産整理で多忙を極めているディビッドだが、この10年ほど続く毎年のロックフェラー夫妻と筆者の3人旅を果たすため、今年も10月末に来日し、日本国内を旅した。旅行の思い出は数々あるが、実はこの日本旅行が海洋問題の流れを変える重要なきっかけになったことがある。それは、2012年の出来事だ。
成田山をお参りしているときのことだ。ディビッドが燈籠や欄干に刻まれた無数の魚の彫刻に目を止めてこう言った。
「日本人はこんなに魚が好きなのになんで資源を大切にしないのだろう」
そして、ズボンのポケットからお財布を取り出し、その中から小さなポケットガイドを取り出した。
「マグロももうすぐ絶滅危惧種になってしまうよ。アメリカにはこんな便利なガイドがあるんだよ」
そう言って見せてくれたのが、「Seafood Watch」という冊子だった。この場面こそ、私にとって知るべきを知った決定的瞬間だった。「世の中には食べていい魚と、このまま食べ続けたら絶滅する魚がある」。そしてディビッドの予言通り、太平洋クロマグロはその2年後に絶滅危惧種となった。
持続可能な消費に向けて
さる11月1日、ディビッド・ロックフェラーJr.が名誉会長を務める海洋環境保護団体・セイラーズフォーザシー日本支局主催の「ブルーシーフードガイド・チャリティレセプション」が開催され、安倍昭恵首相夫人、小池百合子東京都知事、ブドゥラ駐日欧州連合大使夫妻、マチャドEU海事漁業局長官夫妻、7名の国会議員をはじめとした300名超の錚々たる面々が集結した。
左から筆者、安倍昭恵首相夫人、ディビッド・ロックフェラーJr.、小池百合子東京都知事、スーザン・ロックフェラー
海洋環境保護と持続可能な水産物の消費を啓蒙するための年次レセプション。ディビッドの差し出したあの小さなポケットガイドがきっかけで、日本でも持続可能な水産物のリストを作ってキャンペーンを展開しようと開発されたのが「ブルーシーフードガイド」である。
海洋環境は劣化の一途をたどっており、特に水産資源の枯渇が深刻な問題と化している。水産庁によると日本近海の資源の半分は枯渇状態で、資源量が豊富なのはわずかに全体の16.7%に過ぎない。世界第6位の排他的経済水域に囲まれながら、消費の半分は輸入魚に頼っている。米国・ヨーロッパ諸国では禁漁や漁獲規制、政策強化、認証制度の普及によって枯渇した資源も一部回復基調にあり、消費者意識も向上しているが、いまだ日本は解決の糸口を見いだせていない。