ライフスタイル

2017.10.18 08:30

グランドセイコー「独立ブランド化」の舞台裏


「昔、モーターボートに乗っていたころ、霧で陸が見えなくなり、GPSで位置を示す機器ロカティオで助かった覚えがあります。これを時計に生かせないかとプロジェクトを開始し、私も『総力をかけてやってほしい』と開発の現場に出向きました」

プロジェクトは06年にスタートし、小型化や省電力化という難問をクリアして商品化まで6年を費やした。約2万キロ上空のGPS衛星のシグナルをキャッチし、現在地の正確な時刻にあわせられる。「宇宙と交信しているようなワクワク感」という感性に訴えかける工夫をして大ヒットとなった。

「自分の身に着けるものだから、やっぱり人間味がないと」と、先端技術を利便性だけではなく、感性に訴える「エモーショナル・テクノロジー」だと言う。

また、「お客様だけでなく、社員自身も楽しめる会社」を標榜し、「朝晩、会社でイメージソングが流れます」と服部は笑う。社員が作詞をして、服部がウクレレとギターで作曲した。

14年、服部が「快挙」と声を弾ませる出来事があった。かつて精度コンクールで肩を並べてから約50年、ジュネーブ時計グランプリで、グランドセイコーが「小さな針賞」を受賞。日本のメーカーの機械式時計では初めてのことで、「スイスの皆さんもグランドセイコーを確固たるブランドのひとつとして認めてくださった」と喜ぶ。

グランドセイコーの独立ブランド化はずっと以前から念頭にあったものだった。なぜ今? と判断した理由を問うと、彼はまさに風を読むようにこう答えるのだった。

「機が熟したのです」


はっとり・しんじ◎1953年1月、東京都生まれ。慶應義塾大学経済学部卒業後、75年4月三菱商事入社。84年、旧精工舎入社。2003年セイコーウオッチ社長、17年4月より会長兼CEOに就任。12年からセイコーホールディングス会長兼グループCEO兼務。

文=藤吉 雅春 写真=佐藤 裕信

この記事は 「Forbes JAPAN No.39 2017年10月号(2017/08/25発売)」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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