ファッションディレクターの森岡 弘とベテラン編集者の小暮昌弘が「紳士淑女が持つべきアイテム」を語る連載。第6回は、頑丈なリモワのスーツケースをピックアップ。
小暮昌弘(以下、小暮):リモワのスーツケースに関しては、我々は、ずいぶんと昔から愛用してきましたね。
森岡 弘(以下、森岡):30年? 少なくとも25年前にはリモワを使っていましたよ。
小暮:我々が所属した雑誌では、編集者がスタイリストを兼ねていたので、洋服などを入れるケースとして、編集部で購入したんですよね。
森岡:あのころ、海外ロケの荷物が多くて、オーバーチャージが悩みのタネでした。それで東京にある旅行専門店で探してきたんだと記憶しています。まだリモワのケースを使っている人はほとんどいない、そんな時代でした。
小暮:それまで使っていたケースに比べると、とても軽かったのをよく覚えています。リモワは1898年にドイツで創業。最初は木製などで堅牢なケースをつくっていたんですが、1930年代にはすでにアルミニウム製のトランクケースを発売しています。我々が使っていたのは、1950年に発売されたグルーヴ加工を施したアルミニウム製のスーツケース。当時ではかなりハイテクな匂いもしました。
森岡:あのケースにたくさん洋服を入れましたね。パンパンになるまで服をたくさん詰めました。その収納力も魅力でしたが、丈夫さも格別でした。スーツケースは丈夫なものは重いのが当たり前です。それがリモワは軽いんです。トランクは航空会社に預け入れるものですので、旅行に出かけると、多少のカスリ傷は付きものです。しかし「このトランクは、傷は付くけれど、壊れることはないね」と編集スタッフがみんな言っていました。
小暮:我々の使い方がそうとう荒かったと思いますが、外装に入ったカスリ傷も旅や仕事のいい思い出のようなものですからね。
森岡:だから僕は、リモワはジーンズやデニム素材と同じだと考えています。デニムは、使い込んでいくうちに生地のアタリが“味”になるでしょう。このリモワも同じです。アルミニウムに入ったカスリ傷や航空会社のシールの跡など、それが“味”となり、このケースに個性を与え、愛着がさらにわくのです。
小暮:あのグルーヴ加工は、伝説的な航空機ユンカースをヒントに考案されたと聞きますが、機能性を求めて考案された素材、ディテールがプロダクトとして完成され、永遠のデザインに。これはジーンズと似ています。
森岡:リモワは年齢も性別も流行も超えて愛用されているところも、ジーンズ、デニムと似ている点でしょう。