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2017.10.08

125年の歴史を持つブランド、ダンヒルが進める静かな改革

約300年前に建てられ、公爵ほか幾多の住人が暮らしたボードンハウス。その歴史とアットホームな佇まいは、ダンヒルの「ホーム」として申し分ない。


デジタルマーケティングで、カスタマーとコネクトする

カスタマーとのつながりを強化するため、新体制下ではデジタルマーケティングも強化中だ。

「125年の歴史を持つダンヒルが、次の125年も繁栄を続けるために、いま何ができるか? テクノロジーの発達などで急激に変化する市場や消費者の動向に、素早く対応する必要があります。オーセンティックなラグジュアリーブランドという位置付けのダンヒルですが、よりパーソナルで心に響く『ストーリー』を伝えていきたい。そのために、世界中のカスタマーとコネクトできるウェブサイトでの発信には、特に力を入れていきます」

その一つが、ロンドンに暮らすダンヒル愛好者を映し出すショートフィルムだ。シェフ、建築家、起業家などの出演者がそれぞれのロンドンへの想いを語る。職業だけでなく人種もさまざまで、いまのロンドンの多様性がよく反映されている。

「ロンドンにはサビル・ロウのテーラースーツやジェントルマンズクラブなど、紳士の文化が残っています。その一方で、あらゆるタイプのクリエイティブな人たちが世界中から集まるメルティングポットという側面も。これはまさに、ダンヒルの目指す方向性と一致するものです。伝統と多様性を兼ね備えた、ダイナミックなデザインやスタイルに挑戦していきたい」とクリエイティブディレクターのウェストンも語っている。

「企業とはスポーツチームのようなもの。マークのような優秀なスタッフが各分野を率いていますから、私はメンバー全員をつなげてまとめる監督のようなものです」

CEOという立場をマアグはこう解釈する。そのためにも、国内外のスタッフとの頻繁なミーティングは欠かせないという。なかでも日本は、売り上げにおいても重要な位置にある。「日本のスタッフとは毎週ビデオミーティングを行っており、カスタマーのニーズを随時製品にも反映しています」。

実はダンヒルと日本の関係は、1930年に並木製作所(のちのパイロットコーポレーション)と蒔絵万年筆を共同製作したことに遡ることができる。今後、銀座本店を皮切りにショップの改装も計画されており、マアグがリードする「静かな革命」は、いち早く日本に伝わることになるようだ。

インタビューを終えたマアグは、ボードンハウスをじっくり味わってから帰るようにと言い置いた。窓から木漏れ日が差し込む心地よい空間。壁にはダンヒルの歴史を物語る写真などが飾られている。

蛇足だが、1917年から亡くなるまでここに暮らしたウェストミンスター公爵は、スポーツや自動車を愛する稀代の洒落者だった。1925年にココ・シャネルに出会って入れあげ、高価なギフト攻撃で彼女を振り向かせている。二人の関係はその後10年ほど続いた。シャネルは公爵との出会いで英国紳士スタイルに目覚め、有名なシャネル・スーツをデザインしたといわれている。

今日、定番とされているスタイルも、さまざまな出会いと偶然によって左右されながら、時代の先駆者によって形づくられたものなのだ。

日本と同じく島国であるイギリスだが、古くから世界を探検し、科学的発見や発明をし、産業革命を興し、スポーツや文芸面でも世界をリードしてきた。アルフレッド・ダンヒルも同様に、「発明の研究所」であり続けることを生涯目指した。また第二次世界大戦中に店が爆撃で全壊した直後、アルフレッドの息子のヘンリーは、店前の路上で製品を売り始めたというたくましいエピソードも。

EU離脱問題で先が見えにくい現在。だが、発明と不屈の精神をもって、彼らは新たな道を切り拓いていくに違いない。

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アンドリュー・マアグ
2017年1月よりダンヒル最高経営責任者(CEO)。バーバリー社でメンズウェアのシニアバイスプレジデントを務めたのち、ヨーロッパ、中東、インド、アフリカ、アメリカのCEOとして通算10年のキャリア持つ。

text by Megumi Yamashita, Ryo Inao、edit by Shigekazu Ohno

この記事は 「Forbes JAPAN No.39 2017年10月号(2017/08/25発売)」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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