「エブリワン・ウェルカム」ー世界中からやってくるショッピング客で賑わう、ロンドンの目抜き通りニューボンドストリート界隈。ショップ名の旗に混じって、こんなバナーが旗めいている。BrexitーEU離脱問題で揺れるなか、ロンドンはオープンであることをアピールしようという、ロンドン市長が指揮するキャンペーンの一環だ。
実際、ここはコスモポリタンな国際都市。街を歩くと、道行く人々が話すさまざまな言語が耳をかすめていく。グローバルなブランド店が軒を並べる通りを少し奥に入ると、緑深きスクエアが現れる。イギリスらしい歴史ある街並みだ。
なかでも、この周辺では唯一の一軒家として風格ある佇まいを見せるのがボードンハウス。イギリスを代表するラグジュアリーブランド、ダンヒルの「ホーム」になっている。
新風を吹き込むCEO、アンドリュー・マアグ
「ようこそボードンハウスへ!」。2階の一室で、今年初めにCEOに就任したばかりのアンドリュー・マアグが温かく迎えてくれた。前職は同じ英国ブランド、バーバリーのCEO。ビジネススタイルを改革し、ブランドバリューを向上させてきた実績をもつ、イギリスのラグジュアリー市場に精通する人物だ。
「この屋敷は1720年代に建てられたもので、2代目ウェストミンスター公爵の住居でもありました」。そんな歴史をもち、保存指定になっている邸宅は、ダンヒルのホームとして打って付けの物件だ。文化財保存団体イングリッシュヘリテージの監修下、丁寧に修復改装され、2008年に新規オープンしている。
1階はショップで、美しいショーケースや棚にウェアやシューズ、レザーグッズ、カフリンクスなどのアクセサリー、ペンやチェスなどが並ぶ。2階にはスーツやシャツをビスポークする部屋や工房などがあり、公爵の館だった雰囲気を伝える、アットホームかつラグジュアリーな空間となっている。
3階にはバーバーやスパもあり、ここにくればジェントルマンの身だしなみがトータルで整う。プラタナスの大木のあるコートヤードや、隠れ家的な地下のバーでは飲食も楽しめる。ダンヒルというブランドの神髄が詰まった、都会の真ん中のリトリートといった趣だ。
3階にあるバーバーでは、ヘアカットや各種グルーミングが受けられる。
アルフレッド・ダンヒルのチェレンジ精神を継承する
「ダンヒルは、1893年に若きアルフレッド・ダンヒルが父の経営する馬具関係の製造卸業を引き継いだことから始まりました」。やがて、馬から自動車の時代へと変遷を遂げるに従い、「モーター以外はすべて」をモットーに、自動車関連の製品を製造販売する「ダンヒル・モートリティーズ」を立ち上げた。
「アルフレッドの父も祖父も、ともに優れた皮革職人でした。この伝統はいまも引き継がれ、スーツからレザー製品、アクセサリー、ペンまで、専属職人が工房で製作していることがダンヒルの誇りであり、今後も強化していきたい強みです。同時に伝統やノスタルジアにしがみつかず、新しいことにも挑戦し、ダンヒルを世界一のブランドに引き上げることが私の目指すところとなっています」