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ライター、エディター

メイン会場となる「パレ・デ・フェスティバル・エ・デ・コングレ」。写真の左奥、雨除けのアーケイドで覆われているのがレッドカーペット。広告賞「カンヌライオンズ」が開催されるのもこの建物だ。

毎年5月、人口約7万人の小さな街には4万人もの関係者が訪れる。カンヌ国際映画祭は、華やかな映画祭として知られる一方で、世界最大のフィルム・マーケットが併設されるビジネスの場でもある。カンヌが“特別”な理由を探った。


パリから飛行機で1時間半ほど。眩しいほどの光が降り注ぐ南仏ニースのコート・ダジュール空港に降りたち、碧い海を眺めながら、カンヌに向かう。

国鉄のカンヌ駅は一見するとフランスの地方都市と何ら変わらず、“高級リゾート地”を連想させる派手さは皆無。だが、飛び交うさまざまな言語、映画祭へ向かう人々の高揚感が街を包み、どこか特別な空気を生む。

映画祭のメイン会場へ向かう道沿いのテラス席を埋め尽くすのは、プレスパスやマーケットパスを首から下げた人々。カフェに入れば、「孫がロバート・パティンソンを主演に映画を撮ってね」と誇らしげに口にするご婦人に出くわし、思わず振り返った。太陽と街の熱気が人々の心を開放するのか、誰もが饒舌に、映画について語っている。

海に向かい歩き出して5分ほどで、ブランドショップや高級ホテルが軒を連ねるクロワゼット大通りにぶつかり、映画祭のメイン会場である「パレ・デ・フェスティバル・エ・デ・コングレ」(通称パレ)が現れる。

かの有名なレッドカーペットを携えたパレには、授賞式を行う「リュミエール」(2294席)、「ドビュッシー」(1068席)など5つの劇場があり、コンペティション部門及び「ある視点」部門の作品が上映される。上映は朝8時から夜の12時過ぎまで続く。


カンヌ駅の近くにはレッドカーペットを模した階段も。段数は映画祭と同じく「24段」。観光客にとって絶好の撮影スポット。

カンヌ映画祭事務局の発表によると、今年訪れたジャーナリストの数は88カ国4179人(テレビクルーなどの技術者を含むと4871人)。過去最多を更新中だが、この地を訪れるのはジャーナリストだけではない。映画業界誌「ル・フィルム・フランセ」によると、映画祭と並行して行われるフィルム・マーケットに訪れたバイヤーの数は1万2324人。新たな才能を発掘し世に広める「映画の祭典」であると同時に、配給権を巡りしのぎを削るビジネスの場でもあるのだ。

海沿いに行くと「Marche du Film(フィルム・マーケット)」という文字が目に飛び込んでくる。「リビエラ」と名づけられた建物の広大なスペースに、新作を配給会社に売り込むセラーたちがブースを構える。加えて、70以上もの国や自治体のフィルム・コミッションもビーチ沿いにパビリオンを出展し、最新の映画情報を提供したり、ロケ誘致を行ったりしている。映画関係者、そして協賛する企業の関係者を合わせると、参加登録者は4万人を超える。

「唯一無二で最も重要な映画祭」

パレの正面入り口の道を挟んだ瀟洒なアパルトマンに、「SCREEN AUSTRALIA」という看板を見つけた。パレの目と鼻の先にオフィスを置くのは、いったいどんな団体なのだろう。そこに書かれた番号に電話をしてみると、長くオーストラリア映画に携わり、作家としても活動するティム・ベイカーさんが迎え入れてくれた。

カンヌでは、街中にかけられた作品のバナーにも、フィルム・マーケットの入り口に貼られた巨大ポスターにも、セールス会社の名やプレス担当者の電話番号が記されている。気になる作品、気になる団体があれば、素早くコンタクトを取る。そんなスピード感も、カンヌならではなのだ。

「スクリーン・オーストラリア」は、オーストラリア映画の海外プロモーションのサポートなどを行う政府系機関。アパルトマンの一室にはプロデューサーや製作会社の人々が集まり、最新の情報を共有し、意見を交わしていた。オーストラリアは、かねてフランスと共同で映画を製作してきた。国際共同製作は、知名度も資金力もあるアメリカ映画に立ち向かううえでの“生命線”。複数の国が共同で出資することで、市場規模の拡大が見込めるようになる。


オーストラリアの政府系機関「スクリーン・オーストラリア」のティム・ベイカーさん(右)とハリー・アヴラミディさん。

実際、「co-production(共同製作)」という言葉は、映画祭期間中に行われていたカンファレンスで何度も耳にした。国を超えたプロジェクトを模索するのに、カンヌは絶好の場。ベイカーさんは「カンヌは、唯一無二の映画祭で最も重要な映画祭」と話す。

「それは映画祭としての機能、そしてフィルム・マーケットとしての機能の両方を兼ね備えているからです。パレから離れたホテルの一室にオフィスを構えていたこともあったのですが、パレの近くであれば映画祭を常に感じることができる。マーケットが映画祭のなかに入っていくのが大事だと思うんです」

文=古谷ゆう子 写真=岡原功祐

 

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