そのアマゾンが自然食品を扱う高級スーパーマーケット・チェーン、ホールフーズを傘下に収めた今、インフレ圧力は一層、弱まっていくと考えられる。米連邦準備制度理事会(FRB)による利上げの実施は、国内の物価に対するアマゾンの影響力によって、難しくなっている。
アマゾンは8月24日、ホールフーズで販売する食料品の値下げを28日から実施すると発表した。米経済専門局CNBCによると、同社幹部はこれについて、「値下げによって、健康的な有機食品が全ての人にとって手頃な価格になる」と述べている。
ホールフーズが扱う食料品が値下がりすることは、消費者にとっては素晴らしいことだ。だが、スーパーマーケット業界にとっては痛手だ。特に、446を数えるホールフーズの実店舗と競争するその他のスーパーマーケット各社にとっては、アマゾンの脅威を実感するものとなりそうだ。
ホールフーズの方が競合他社よりも「価値の高い(低価格で高品質の)」商品を提供していると消費者が考えれば、ホールフーズ以外の各社は顧客を失うことになるだろう。そして、その中で各社が競争を続ける方法の一つは、利益を減らしてでも、販売の低迷を食い止めるための値下げを実施することだ。スーパーマーケット各社の平均営業利益率は現在のところ2.7%程度で、 1.7% のアマゾンを大きく上回っている。
ただし、各社が注意しなくてはならないのは、食料品以外の商品の値下げや会員制プログラム「アマゾンプライム」の加入者の増やすための特典の拡大など、アマゾンはその他の方法で、長期的に顧客を確保していく用意があるということだ。
「アマゾンプライム」はアマゾンのビジネスに非常に大きな利益をもたらしている。調査会社コンシューマー・インテリジェンス・リサーチ・パートナーズによれば、プライム会員はアマゾンを通じて年間およそ25回、総額1300ドル(約14万円)程度の買い物をしている。一方、非会員の買い物の回数は同11回で、購入金額は700ドル程度だ。
また、米投資会社パイパー・ジャフレイによると、アマゾンは値下げによってより低所得の世帯にも、プライム会員への加入を促していきたい考えだ。すでに加入している米国のおよそ5000万世帯のうち、世帯年収が11万2000ドル以上の世帯の加入率は82%。同6万8000~11万2000ドル未満の世帯は67%となっている。だが、同6万8000ドル未満の世帯の加入率は、50%にとどまる。
米国の連邦準備制度(FED)には、就業率を高水準に維持し、インフレを低く抑えるという2つの使命がある。(今年5月の雇用統計によると、)失業率は4.3%と16年ぶりの低水準となっている。また、個人消費支出(PCE)価格指数は今年2月には5年ぶりの高水準となる前年同月比2.2%となったものの、その後は鈍化。6月には同1.4%の伸びとなった。賃金水準が急上昇し始めることがない限り、FRBは利上げを行うことができないだろう。
一部にはアマゾンのおかげで、仮に米国が近く10年に一度起きるとされる金融収縮に陥ったとしても、FFDは利下げによって流動性を供給することができない状況にある。