この工房では、これまでに製作したものは、たとえそれが懐中時計の時代の複雑時計であっても必ず修復されるという。工房内に創業時からの時計がパーツの状態で保管されており、それに基づいてパーツが作られ、そこにないものは新たに設計図面に基づいて作られる。古いもので1882年のものから保管されているという。
それは、自社製品だけでなく、ジュウ渓谷で製作されたすべての商品が対象となっている。それはオーデマ ピゲに、この地における時計文化の遺産を守っているという自負があるからにほかならない。
その丁寧な仕事は、いうまでもなく現代の時計製作にも継承されており、機械式時計のキモであるムーブメントの製作でも複雑に入り組んだ膨大な数のパーツは手作業で組み立てられる。
シンプルな手巻きモデルでも、100以上のパーツが使われており、その数は、自動巻き、クロノグラフと時計が複雑になるにしたがって、どんどん増えていく。精密機械である時計だけに、ひとつのパーツに不具合があっても正常に機能しなくなるので、複雑になればなるほど難度は増していくのである。
オーデマ ピゲでは、その構成パーツすべてに手作業で磨きをかけ、装飾を施す。パーツをただ正確に作り、正確に組み立てさえすれば、時計の機能上の問題はないはずで、裏蓋で覆ってしまえば表からまったく見えないムーブメント。それを、しかも数百からなるムーブメントの構成パーツすべてに、手作業で磨きや装飾を施すことが高級時計ブランドとしての誇りなのである。
そんなオーデマ ピゲの歴史やこれまで世に送りだしてきた名品の数々は、工房内にあるミュージアムに展示されている。
そこは、ロイヤルオークのファーストモデル(1972年)からロイヤル オーク オフショアのファーストモデル(93年)まで、その変遷が辿れるようになっていたりと、オーデマ ピゲファンには堪らない構成となっている。さらに、世界最薄の懐中時計用ムーブメント(25年当時)、世界最薄の自動巻きムーブメント(67年当時)、トゥールビヨン搭載の世界最薄、最小の自動巻きムーブメント(86年)など、オーデマ ピゲの高い技術力を示す、“世界初” のムーブメントも展示されている。
このミュージアムは、現在、もっとも古い建物のなかにあるが、敷地内に建築中(今年3月に着工)の近代的な新ミュージアム完成後、そこと一体化される。
ビャルケ・インゲルス設計の新しいミュージアムは、これまでの歴史的な建造物とはまったく違い、外壁がガラス張り、かつ円形というモダンなデザイン。完成が楽しみである。