カンヌを騒がせた「ネットフリックス映画」 監督の思いは?

6月29日からオンラインストリーミングが開始された『オクジャ/ okja』、カンヌの街角にて(写真=岡原功祐)

今年のカンヌ国際映画祭では、動画配信を前提とした「ネットフリックス オリジナル映画」2作が初めてコンペティション部門に選出され、大きな議論を巻き起こした。

映画館で上映されず、ネットのみで配信される作品が「映画祭」のコンペティション部門に選出されることに反発も多く、映画祭事務局は、2018年からフランス国内のスクリーンで上映される予定のない作品はコンペティション部門に出品できない、という異例の発表を行った。背景には、劇場公開された作品はその後3年間、オンラインストリーミングサービスで作品を流すことを禁じる、というフランスならではの法律もある。

ネットフリックス オリジナルとして選出された2作が、『殺人の追憶』で有名な韓国の鬼才ポン・ジュノ、そして『イカとクジラ』『フランシス・ハ』で知られるノア・バームバック、というインディペンデント色の強い二人の監督の作品とあって、その内容にも注目が集まった。

世界最大級のオンラインストリーミングサービスを巻き込み製作することで、果たして彼らの作品のテイストに変化は見られるのか、という点にも関心が寄せられたのだ。

ポン・ジュノの『オクジャ/ okja』は、6月29日から全世界でオンラインストリーミングがスタート。それに先駆け東京で行われた来日記者会見で、ポン・ジュノは主演女優であるアン・ソヒョンとともに登壇した。

豚のような、カバのような巨大な生き物“オクジャ”は、韓国の山奥で少女ミジャと暮らす。ある日、遺伝子組み換えを行う巨大な多国籍企業「ミランダ・コーポレーション」がオクジャをニューヨークへと輸送しようとしたことから、動物愛護団体を巻き込みながら、オクジャ救出作戦が始まる──。



ポン・ジュノは会見で「遺伝子組み換えに詳しい方は分かると思いますが、弁護士に『具体的な企業の名は言うな』と言われたので、言いません(笑)」と口にしていた通り、「ミランダ・コーポレーション」は実在の巨大企業を彷彿とさせる。

これがもし、既存の大手スタジオ製作の作品であったのなら、方々の顔色を伺いながらストーリーを練り上げることも考えられる。だがポン・ジュノは、「ネットフリックスでは、創作の自由は100%守られていました」と口にしていた。

会見で、「ストリーミングに合う作品」と「劇場公開に合う作品」に違いはあるのか? と問われたポン・ジュノは次のように答えていた。

「これはストリーミング用の作品なのか、劇場で上映されるか否かを念頭に置きながら作業していたわけでは決してないんです」

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NYで行われた『オクジャ/ okja』の会見。右から2番目がポン・ジュノ監督(Getty Images)

監督として最も心が痛むのは、作品が途中でCMなどが入りブチっと切られたり、画面のどこかに常にクレジットや文字が入っていたり、そうやって映画が“汚される”瞬間なのだという。だが、ネットフリックスではストリーミングの際、そうしたことをきちんと守ってくれる、と。

『オクジャ/ okja』はシンプルなストーリーながら、紛れもなく「ポン・ジュノ」の作品だった。ポン・ジュノ自身が「『未来少年コナン』の女の子版」と表現していた通り、本作はアドベンチャー色が強く、幅広い世代がポン・ジュノの世界の一旦に触れられることは喜ばしいことでもある。

『オクジャ/ okja』は韓国では、100館以上での上映が決定しており、ネットフリックス側は「スクリーンで上映したい」というポン・ジュノの想いにも柔軟に対応しているという。

今年、「フランス国内のスクリーンで上映される予定のない作品はカンヌに出品できない」という決定がなされたが、来年のカンヌ国際映画祭では、もう一段階上の議論が交わされることになるかもしれない。

文=古谷ゆう子

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