閉幕の2、3日前には、各国のバイヤーたちは一足先にカンヌを後にし、街は落ち着きを取り戻しつつあるように見えた。今年は、映画祭期間中にマンチェスターで悲しいテロ事件が起き、映画祭中盤から更に警備が強化された感がある。
上映会場に入るためには、プレスパスのチェックとともに手荷物チェックを受けなければならない。警備員に持ち物を差し出し、金属探知機で全身チェックを受ける。なかでも、メイン会場である「パレ・デ・フェスティバル」の警備は特に厳重で、鞄に忍ばせていたクラッカーの箱まで開けられた。翌日、「箱がダメなら紙袋で」と、鞄に小さなバケットを入れ持ち歩くも、あっけなく取り上げられてしまった。
馬に乗った警官、大きな銃を持った警官が会場近くで警備する姿は、悲しいことに“カンヌの日常”となってしまった。
こうした時代の空気は、コンペティション部門で上映された作品の多くに映し出されていた。
夫がテロの標的となり、復讐の念に取り憑かれながらも何とか這い上がろうとする妻(ファティ・アキン監督の『In the Fade』)。売春のために人身売買された少女たちを助けることを生業とする退役軍人の男(リン・ラムジー監督の『You Were Never Really Here』)──。
前者は、これが生まれ故郷であるドイツの映画初出演となるダイアン・クルーガーが主演女優賞を受賞。後者は、身体を一回りも二回りも大きくし、過去から逃れられない男を好演したホアキン・フェニックスが主演男優賞を受賞している。どちらも映画祭終盤に上映され、賞レースのラストで強い印象を残した。
最高賞のパルム・ドールは、映画祭序盤から高い評価を得ていたリューベン・オストルンド監督の『The Square』に。現代美術館を舞台に、現代を生きる人々が抱える問題を風刺的に描き、フランスの日刊紙「フィガロ」は、「サプライズの少ない本映画祭で、唯一のサプライズ」と評していた。
パルム・ドールを受賞した『The Square』のリューベン・オストルンド監督(Getty Images)
グランプリを受賞した『120 Batement per minute』(英語タイトル『BPM』)は、1990年代前半、エイズによる差別や偏見と闘った若き活動家たちを描き、本作は監督のロバン・カンピヨの実体験がベースとなっている。
“知られざる実話”として時代の流れを描きながらも、その視点は常に個人に向けられ、登場人物一人一人の感情を丁寧に描き、観る者の心を奪った。こちらも「コンペに出品されたフランス映画のなかでも、予想外にレベルの高かった作品」と称えられていた。
「BPM」で同性愛者を熱演した出演者たちと監督ロバン・カンピヨ(左から2番目、Getty Images)
コンペティション部門に出品された作品の多くは来年、日本で公開されるはず。カンヌ映画祭で上映された作品が海を渡り、どのように日本で公開されるのか。楽しみに待ちたい。