キャリア・教育

2017.06.29 17:30

東京発「地方おこし」の仕掛け人10人

アソビュー、山野 智久社長(photographs by Jan Buus)

アソビュー、山野 智久社長(photographs by Jan Buus)

東京から地域の人たちと新しい価値を創造している人がいる━。地方に詳しい専門家17人によるアドバイザリーボードの推薦のもと、フォーブス ジャパンが選んだ仕掛け人を紹介する。

地域の「新価値」創造人/じゃらんリサーチセンター 沢登次彦


2005年、熱海市ー。「東京発地方活性化」に長く携わってきた第一人者、じゃらんリサーチセンター長・沢登次彦。彼の活動の起点は、当時、廃れた温泉街だった熱海の再生、進化にある。「消費者の立場で、地域の人が見えづらくなっている魅力・宝を、しっかりと地域の人たちに伝えていく大事さ」が原点だと言う。

「『素晴らしいところもあるよ』と伝えるため、定量調査により客観的なデータを揃えて、地域の魅力を地域の人たちに理解・発見してもらった」
 
地域の人から観光に向かないと評された場所も、沢登には魅力的だった。たとえば、生活排水が流れず水質がきれいな人工ビーチ。しかも、禁煙。特定の人たちには興味があるのでは、という仮説が立った。

都市部に住む人たちに「知っているか?」「興味があるか?」と聞いた結果、「東京在住の小さな子供を持つ家族連れの“海デビュー”に最適」という新たな価値が生まれた。本来は魅力があるが、日常の中に埋没している地域資源に目を向け、組み合わせる工夫で、光り輝くことを実体験した。
 
じゃらんリサーチセンターでは現在までに、奈良県十津川村での「過疎地と都市部を結ぶ“幸せのブリッジ”プロジェクト」や青森県深浦町の深浦マグロステーキ丼に代表される「新・ご当地グルメ」の開発、都市部のクリエーターや起業家などと地域の人たちを紡ぐ「コ・クリエーション(共創)」など、様々な取り組みで、地域に新たな価値を創造し、需要、消費を生み出してきた。


奈良県十津川村での「過疎地と都市部を結ぶ”幸せのブチッジ”プロジェクト」では都会の若者や子供が多数参加した。

「10年前と比較すると、自分たちの住んでいる地域で何かをはじめようという人たちは確実に増えています。その種火が消えないために、まきをくべて、地域が自走するまで火を絶やさないのが、我々外部にいる人間の役割です」。

ICTで生産性工場へ/熱意ある地方創生ベンチャー連合 山野智久


「スタートラインに立った実感はあります。ただ、取り組んでいる社会課題が大きいがゆえに、成果が出るまでにはまだ時間が必要です」
 
東京のベンチャー企業が中心となり2015年7月に設立した「熱意ある地方創生ベンチャー連合」の代表理事を務める山野智久は、これまでの道のりをそう評価する。

山野が社長を務める、体験予約サイト運営のアソビューは、三重県と連携し、小規模耕作地を農業体験に活用して収益化を図る組織を立ち上げた。同じくベンチャー連合のメンバーで、クラウドソーシングサービスを運営するランサーズは、横須賀市と同サービスを活用した新事業をはじめた。

同メンバーで、空きスペースの貸し借りをネットで仲介するスペースマーケットは、同じく横須賀市と猿島という無人島を貸し出すなど、様々な取り組みが出始めている。浜松市職員が同団体事務局へ派遣されるなど、人材交流も始まっている。

なぜ、山野は「ベンチャー連合」を設立したのか。ICT(情報通信技術)で観光産業の生産性を上げることにより、売り上げが上がり、新しい挑戦をする地域の事業者の姿をアソビューで何度も見ていく中で、「ICT活用によって地域の生産性を上げられる伸びしろは、観光分野以外にもある」という思いが出てきた。一方で、自治体とベンチャーとの距離は遠く、情報が遮断されている現状に課題を感じたからだという。


「アソビュー」により、鳥取県のシーカヤック事業者が盛況に。ICT活用による生産性支援の可能性は大きい。

「熱意のある地域が、持続可能な経済成長をするために、少ない予算で成果を出すベンチャーのノウハウを活用し、チャンスの芽をつくる」ー。それが山野の掲げる地方創生支援の姿。だからこそ、様々な業種のベンチャー総計29社が集う、「東京からできること」は多い。
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文=フォーブスジャパン編集部

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