ビジネス

2017.06.26

日米スペシャリスト対談 なぜ日本は、HR後進国なのか?

ジョシュ・バーシンと麻野耕司(photograph by Michael Short)


バーシン:従業員エンゲージメントを高めるために、「オートメーション」や「テクノロジー」も重要だが、最も大事なものは「トップマネジメント」だ。トップマネジメントが、従業員に提供するべきものは(1)Meaning、(2)Contribute、(3)Rewarding、(4)Company Managementの4つだ。

(1)従業員へ帰属感や仕事へのオーナーシップを与え、「この仕事は自分に向いている」と思わせる、(2)個人の努力が会社に貢献しているという実感を与える、(3)充実した仕事と十分な報酬を与え、健康や精神面の充実をサポートする、(4)リーダーシップを発揮しながらビジネスを展開し、従業員の業績と報酬を評価する「マネジメントチーム」をつくる。トップマネジメントが、この4つ全てを提供することこそが、従業員の「Good Work」に繋がるのだ。

麻野:日本においても、「トップマネジメントが強い」ことは、従業員エンゲージメントの高い企業の共通点。これは事業の種類や組織の規模を問わない。さらに、モチベーションクラウドのデータによれば、「理念戦略」のスコアが高いこととの相関関係が強く、実は福利厚生などの「制度待遇」では有意的な差は表れなかった。

バーシン:企業が「理念戦略」を実現するために必須なのは、強いリーダーシップ。リーダーが従業員のためにできるのは、次の3つ。(1)従業員への目的設定、(2)組織の透明性の実現、(3)従業員の能力開発への投資。この全てが、従業員エンゲージメント向上に大きな影響を与える。

麻野:中でも、ミドルマネジャーの「意識改革」へのコミットがより重要視されるはずだ。今後、全てのミドルマネジャーが商品市場への適応、つまりは「事業面の成果」だけでなく、労働市場への適応、つまりは「組織面の成果」が求められるようになる。その「組織面の成果」の中で最も重要なのが、従業員エンゲージメントを高めることだ。トップマネジメントのコミットなくして、ミドルマネジャーはなかなか変わらない。従業員エンゲージメントの価値を、うまく啓蒙できることが鍵となる。

バーシン:最後に、我々HRスペシャリストの使命について語ろう。エグゼクティブたちの90%は、従業員エンゲージメントの重要性を認識しているが、この問題に対処する方法を理解しているのは50%未満。79%の企業は、従業員エンゲージメントを高めることは困難だと感じている。そんな企業のために、社員が意欲的に働ける情熱に溢れた組織づくりを支援し、未来への道筋を描く─今ほど、HRスペシャリストが活躍できる時代はないと、私は信じている。

ASANO’s VOICE

「日本という国の最大最強の資源は、人材である」。このメッセージには、多くの人が賛同するはずだ。

しかし、日本企業の従業員エンゲージメントは、国際水準と比べ、著しく低く、人材の持つポテンシャルを十分に企業活動に結びつけられていない。その上、従業員エンゲージメントを高めるためのツールである「サーベイ」も、多くの企業で適切に活用されていないままだ。

アメリカは商品市場におけるソフト化や労働市場における流動化が日本よりも進んでいることもあり、従業員エンゲージメントへの関心は、以前から非常に高かった。クラウド化などのテクノロジーの進化による、パルスサーベイをはじめとした、従業員エンゲージメントデータ活用に向けた新たな取り組みも進んでいる。日本という国が人材という最も重要な資源を活用するためにも、今こそ日本企業の経営陣、人事は従業員エンゲージメントに関する取り組みを見直すべきだ。


麻野耕司◎リンクアンドモチベーション執行役員。2010年より、現職。13年にベンチャー企業向け投資事業、16年に国内初の組織改善クラウド「モチベーションクラウド」を立ち上げた。

ジョシュ・バーシン◎バーシン・バイ・デロイト プリンシパル。2003年、バーシン&アソシエイツを創業。12年12月にデロイトが同社を買収し、13年1月より現職。

文=フォーブス ジャパン編集部 写真=マイケル・ショート

この記事は 「Forbes JAPAN No.37 2017年8月号(2017/06/24発売)」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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