「元来、主に生産者や需要者が過度な価格変動のリスクをヘッジするために利用していたコモディティ先物市場は、株式市場や債券市場といった伝統的な金融市場との関連性が小さかった。そのため、分散投資に非常に有益な市場だとする研究が90年代後半から複数発表され、多額の投資資金が先物市場を通じてコモディティ市場に流入しました。その結果、コモディティ市場と株式市場の関連性は00年以降、大きく上昇し、分散投資効果が顕著に減少しています」
分散投資に効果のある対象が“発見”されても、国際投機資金が大規模に流入し、分散投資効果が低下してしまう──このイタチごっこが続いているのだという。
株式と組み合わせて分散投資の対象とされることの多い債券(国債)も例外ではない。日本では株価が上がれば国債価格が下がり、株価が下がれば国債価格が上がるという相関関係が長らく続いている。
国債が国内で日本株との分散投資の対象になってきたこと、国債がリスク回避の目的に利用されてきたことなどが理由だが、その根底には日本国債の信用リスクの低さがあった。だが、沖本氏は、日本国債が危険資産視されて分散投資効果が消える可能性を認める。
先行事例になりそうなのは、イタリア、ポルトガル、スペインなどだ。この3カ国は2009年末のユーロ危機発端以降、株価と国債価格が同じ方向に変動する傾向が強くなっている。いずれも多額の政府債務を抱えており、国債が株式と同様の危険資産と認識されたためだという。
日本も1000兆円を超える政府債務を抱え、GDP(国内総生産)と債務の比率で見ても、上記3カ国より財政状況は悪いと言えるレベルだ。
沖本氏は、日本政府が多額の資産を保有していて純債務では「いくぶんマシ」になること、債務の大部分が国内で消化されていること、日本が世界最大の債権国であり経常収支は大きな黒字であることは強みだとしながらも、こう説明する。
「日本の財政状況があまり望ましくない状況であることには変わりありません。特に政府債務の拡大は収まっておらず、近い将来、国債の国内消化が難しくなることも指摘されています。また、現在は日銀が年間80兆円程度のペースで国債を買い入れていますが、これもいずれ縮小していくでしょう。財政再建や構造改革が進まないかぎり、日本国債を取り巻く環境は厳しくなっていくのではないかと考えています」
機関投資家から、預貯金を通じて日本国債を保有するレベルの個人投資家に至るまで、無関心ではいられないはずだ。
沖本竜義◎オーストラリア国立大学クロフォード公共政策大学院准教授・一橋大学大学院国際企業戦略研究科客員准教授。1976年広島県生まれ。東京大学経済学部卒業、同大大学院修士課程修了、米カリフォルニア大学サンディエゴ校経済学研究科博士課程修了(経済学Ph.D.)後、横浜国立大学准教授、一橋大学大学院准教授を経て、2014年より現職。