「近年、分散投資効果は顕著に減少し、リスクは上昇する傾向にある」
「日本国債が危険資産と認識され、日本株と日本国債との分散投資効果が消滅してもおかしくない状況になりつつある」
このように聞かされると背筋の冷たくなる人は少なくないだろう。投資リスクを軽減するには対象を分散させるのが効果的だとの考え方が一般化しているからだ。しかし、冒頭の指摘は学術的な研究で明らかになった結論であり、当の研究は今年3月、GPIF Finance Awardsを受賞した。
このアワードは国民年金や厚生年金の保険料を運用するGPIFが日本のファイナンス分野の若手研究者を対象に今年新設した。GPIFは年金運用の高度化に乗り出しているものの、それを支える学術研究が日本では進んでいない。優れた研究者を自ら発掘して支援することで、日本の年金運用の水準を底上げする狙いがある。
第1回となる今回は学界から12名、実業界から9名、計21名の研究者が推薦された。受賞者にはオーストラリア国立大学クロフォード公共政策大学院の准教授で一橋大学大学院の客員准教授も兼ねる沖本竜義氏が選ばれた。
沖本氏は1976年生まれの40歳で、専門は金融計量経済学や実証ファイナンス、応用マクロ経済学。今回、受賞した研究のテーマは、国際分散投資における投資対象の値動きの関連性とその長期トレンドである。
沖本氏は3月29日に東京で開かれた授賞式で、分散投資効果の減少など、これまでの投資・運用の“常識”が揺さぶられるような研究結果を披露。選考委員として同席したノーベル経済学賞受賞者のロバート・マートンMIT(マサチューセッツ工科大学)スローン・ビジネススクール教授らから、あらためて喝采を受けた。
分散投資効果が「顕著に減少」
沖本氏によると、先進国の株式市場の間では相互の依存関係が上昇しており、米、英、独、仏4カ国の市場をみた場合、1973年と2008年の比較では国際分散投資によるリスク低減効果が約20%下落し、分散投資の効果はほぼ消滅した。
こうした変化の理由について沖本氏は、日米間の分散投資における米国の金融政策の影響が両国の金融市場に及ぼす影響の変化を例に挙げ、次のように指摘する。
「かつてはFRB(連邦準備制度理事会)の利上げの影響は米国市場に強く出る一方、日本市場の方には弱かったため日米の両市場に分散投資を行う意義が大きかった。しかし、金融市場が国際化したことで、今では米国の利上げの影響が双方の市場に同じように現れる傾向にあります。その他にも、かつては一方の国でしか影響を持たなかった事象が、両国に同様の影響を与えることが増えてきたため、日米の株価が一緒に上下する傾向が生じ、分散投資の効果は落ちてきています」
悩ましいのは、分散投資は投資対象を適切に選べば引き続き有効であり、これに代わるほどのリスク抑制法が見出されていない点だ。そのため、分散投資の継続を目指す投資家は、関連性の低い投資対象を絶え間なく探り続けることになる。コモディティ(商品)市場の金融市場化も、こうした動きの結果だ。