第1回は、かつて「この地は、まるで眠っているようだ」と評されていたバイエルン州の都市、レーゲンスブルクの事例。
ドイツと日本は、同じ悩みを長らく抱えていた。低い出生率と人口減少だ。近年は移民の流入で改善の兆しがあるが、いまも地方には減り続ける人口に頭を抱える都市が多い。
しかし、そのようなトレンドの中でも、自立的な経済基盤として地域を支える「ローカルハブ」が複数存在する。ローカルハブとは、世界で勝負できる資源(比較優位)を生み出すことで外貨を安定的に稼ぎ、それを地域で受けとめることができる都市のことである。
現在、ローカルハブと呼ばれる都市も、最初からそのように機能していたわけではない。むしろ他の地方都市と同じような課題に直面していた。しかし、今回紹介する都市は、高い生産性を実現して、衰退のサイクルを自立発展のサイクルに逆回転させた実績を持つ。
単純に企業を誘致しただけでは、地域の安定的な発展につながらない。いずれも「産・学・官」の綿密な連携により、内発的な発展を遂げることに成功した都市である。
この地は、まるで眠っているようだ。バイエルン州レーゲンスブルクは、かつてこう評されていた。水上運輸の要として栄えた都市だが、1970年から人口減と産業の衰退で、活気を失っていたからだ。ここで改めてこの都市の課題とデータを紹介しよう。
課題:大企業の拠点はあるがベンチャー企業が生まれない
人口:約12.7万人
主な産業:自動車、ITを中心とした製造・研究開発
立地する主な拠点:BMWの生産・研究開発・試作開発拠点
大企業の生産拠点はあった。例えばBMWは80年代後半、この地に工場をつくった。しかし、ものづくりへの依存はリスクが高い。レーゲンスブルクからそう遠くないチェコは、ドイツより人件費が40〜50%低い。これではいずれ工場が移転し、さらなる停滞を招く可能性がある。
大企業があるだけでは自立的な発展は難しかった。大企業に勤める人材は優秀だ。しかし、しばらくすると転勤で他の地に移ってしまう。人が定着しなければアントレプレナーは現れず、地域内からベンチャー企業が生まれることもない。
そこでレーゲンスブルクはBMWと連携し、「生産拠点型」から「研究開発型」の企業城下町へと、コンセプトの転換を図った。BMWが研究・試作開発機能を強化した結果、部品を供給する準大手のサプライヤーも研究開発拠点を置き始めた。さらにそこからスピンアウトした人材が同地で創業するという流れができあがった。
この流れは、大企業の研究開発拠点を呼び込んだだけでは起きなかった。鍵になるのは、自治体と企業の連携によるコンパクトな街づくりだ。中心市街地を活性化し、良質な住宅を整備しておくことで、優秀な人材がこの地に住みたくなる環境を整えた。それが結果として大手企業の誘致につながったと言えよう。住みやすい街と魅力的な仕事があれば、転勤のおそれがある大企業に勤める必然性は薄れる。その結果、街に愛着を持ったエンジニアたちのスピンアウトが相次いだ。
現在、レーゲンスブルクは人口増加に転じ、1人あたりGRP(域内総生産)も全ドイツで6位(2013年)。眠れる都市は、いまや完全に覚醒している。
神尾文彦◎野村総合研究所社会システムコンサルティング部長、公共プロジェクト室長、主席研究員。都市・地域戦略、道路・上下水道等の社会インフラ政策戦略、公的組織の改革等の業務に関わり、総務省「公営企業の経営戦略の策定等に関する研究会」委員をはじめ、国・自治体の委員を歴任している。