2013年、内閣官房国土強靭化室が発表し、脆弱性解消のための施策を講じた。ところが残念ながら、この施策は世界の危機管理の常識からは外れている。
北朝鮮のミサイル、サイバー攻撃、先進国の保護主義化など、日々のニュースを見ると、私たちの生活を脅かすリスクが増している。では、なぜ日本と海外で、なぜ危機意識の違いが生じるのだろうか。
出典:内閣官房ホームページ、国土強靱化PDF
多様化し、複雑化した「リスクの見取り図」を提供している調査がある。世界経済フォーラムの「グローバル・リスク調査」だ。ダボス会議に参加する世界のリーダーたちへのアンケートをもとに、今後10~20年先の未来予測を行う壮大なものである。
その成果は、毎年1月中旬に「グローバル・リスク報告書 」として公表され、年次総会(通称ダボス会議)の討議のための素材として活用されているほか、各国政府、国際機関、企業らの長期戦略策定にも具体的な影響を与えている。2017年1月に公開された「グローバル・リスク報告書2017」のなかでも注目すべきグローバル・リスクは、異常気象、自然災害、大規模な移民、テロ、サイバー攻撃、水資源危機、気候変動対応となった。
この調査のキーワードは「オール・ハザード・アプローチ」だ。
報告書は、世界経済フォーラムが調査したものだが、経済リスクよりも環境、社会、技術のリスクが脅威と評価されている点が興味深い。これらの脅威に対して設定されたテーマは、1)経済の成長と再生、2)コミュニティの再構築、3)新技術の管理、4)国際的な協調関係の強化、5)気候変動への迅速な対応。この1〜5の議論が展開されている。つまり、2次災害や被害の拡大を食い止め、いかに早く私たちの生活を復元していくかが論じられているのだ。
また、この調査で興味深いのは、各リスクに対して「脅威」の側面だけではなく、「機会」として捉えている点だ。 “経済”フォーラムらしく、危機を管理するための技術とマネジメント手法が、ビジネスや外交手段などにも通用することをわかっているのだ。
一方、前述した日本の国土強靭化で想定している主たるハザードは大事故、自然災害である。他のハザードについては、ミサイルに代表されるテロ対策は「国民保護法」、サイバーなど情報性キュリティ対策は「サイバーセキュリティ基本法」、感染症パンデミックは「新型インフルエンザ等対策特別措置法」が整備されている。要するに、リスクごとに法体系が個別具体になっている。
それぞれの危機を経験した日本ならではの危機管理の歴史があるのは十分承知で、あえて誤解を恐れずに言えば、危機管理政策を巡る多面的な既得権益からの脱却ができず、いまもなお小集団の陣取合戦になっている。