しかし、我々の潜在意識への否定的な影響という問題は、視野を拡げて見れば、テレビや映画などのメディアを通じてだけ起こっているわけではない。
日々の職場の中で、何気なく耳に入ってくる上司の愚痴や不満。ふと目に入ってくる上司の暗い表情や投げやりな仕草。それもまた、実は、ある種のサブリミナル効果によって、部下の潜在意識に、否定的なイメージを刷り込んでしまっている。
残念なことに、この上司は、悪意はないが、自分の愚痴や不満、表情や仕草が、部下のモチベーションを下げ、さらには、部下の能力の開花さえ妨げてしまうことの怖さに、気がついていない。
しかし、この「心の環境問題」には、大きな救いがある。通常の環境問題であれば、汚染というマイナスの影響が起こるか否かが問題になるが、「心の環境問題」においては、マイナスの影響だけでなく、プラスの影響も起こる。
職場の上司の明るい笑顔や生き生きとした表情が、そして、自然に口から出る部下に対する感謝の言葉やねぎらいの言葉が、部下の表層意識はもとより、その潜在意識も、良きものに変えていく。
そして、これは、決して小さなことではない。なぜなら、21世紀の高度知識社会におけるマネジメントは、部下の中に眠っている創造性を引き出し、その隠れた能力を開花させるための「潜在意識のマネジメント」に向かっていくからである。
しかし、部下に対して潜在意識のマネジメントを行うためには、まず、何よりも、我々、経営者やマネジャーに問われることがある。
自分の潜在意識のマネジメントができているか。そのことが、深く問われる。
田坂広志の連載「深き思索、静かな気づき」
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