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田坂広志の「深き思索、静かな気づき」

shutterstock.com

心理学の世界に、「サブリミナル効果」という言葉がある。

例えば、映画館において上映される映像に、観客の表層意識では気がつかない閾値下(サブリミナル)のレベルで、ほんの一瞬、しかし、繰り返し、「コークを飲め」「ポップコーンを食べろ」という文字を挿入しておくと、映画を見終わった後、多くの観客が、無意識に、コークを飲み、ポップコーンを食べたくなるといった心理効果のことである。

このサブリミナル効果を利用した広告や宣伝の影響力と危険性を論じたのが、ウィルソン・ブライアン・キイの『潜在意識の誘惑』や『メディア・セックス』などの著書であるが、この手法が、実際の広告や宣伝において、どれほど具体的な効果を発揮するかについては、疑問や批判も含め、様々な議論がなされている。

しかし、映像や画像、音声や音響、記号や文字を通じ、人々の潜在意識に特定のイメージを刷り込むことによって、人々の気がつかぬうちに、その心理的な反応や行動をコントロールできることは、いまや、広く認められるところとなっている。

幸い、テレビや映画などのメディアにおいては、このサブリミナル効果を、広告や宣伝などの商業目的で意図的に利用することは禁じられているが、問題は、そうした意図的なものでなくとも、日々、メディアから溢れ出すイメージの洪水が、このサブリミナル効果によって、我々の潜在意識に、否定的な心理を刷り込んでしまうことである。

例えば、テレビを通じて、毎日、暴力や破壊、悲惨や悲劇、事故や病気などの否定的なイメージ情報が、大量に、そして、一方的に、我々の潜在意識に刷り込まれているが、このことが引き起こす心身医学的問題や社会心理学的問題は、決して無視できないであろう。

これは、明らかに「心の環境問題」と呼ぶべきものであるが、この環境問題の深刻さは、気がつかないうちに、我々の潜在意識に否定的なイメージが刷り込まれ、それが自覚されないまま、我々の心理と行動に悪しき影響を与えてしまうことである。

もし、これが、通常の環境問題であれば、環境中の汚染物質の濃度を測定し、適切な除染を行うことによって、それが体内に入るのを防ぐことができる。しかし、この「心の環境問題」は、自分の潜在意識が、どのように汚染されているかを知る明確な方法もなければ、その汚染を除去する有効な方法もない。

週末、海や山などの自然に触れることや、静かな場所で瞑想をすることを習慣とする人々は、意識的にも、無意識的にも、この「心の環境問題」への懸念を抱き、自身の心の深層を浄化する「潜在意識のマネジメント」を行っているのであろう。

文=田坂広志

 

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