米アフリカ軍(AFRICOM)のトーマス・ワルドハウザー司令官は米紙ウォールストリート・ジャーナルに対し、各国の対策により一度は途絶えていた海賊による襲撃が5年ぶりに発生、増加し始めたことに強い警戒感を示した。
この2か月ほどの間に、商船など6隻が海賊の襲撃を受けている。ハイジャックされた船もあり、小型で食糧や石油を積載しているこれらの船は、海賊にとって格好の標的だという。
5年ぶりに発生
海賊による襲撃事件は、2012年以降は途絶えていた。だが、今年3月13日には載貨重量1800トンの石油タンカー「アリス13」が海賊に乗っ取られ、スリランカ人の乗組員8人全員が人質として拘束された。乗組員らは数日後、海賊らと警察の銃撃戦の末に解放された。人質解放の交渉に当たった関係者は、身代金は支払っていないと説明している。
国際商業会議所(ICC)の商事犯罪情報サービス (CCS) によると、4月24日以降にも少なくとも1件の襲撃事件が発生している。小型モーターボートに追跡されたプロダクトタンカーの乗組員1人が、負傷したと報告されている。
サプライチェーンの弱点
「アフリカの角」と呼ばれるアフリカ東部の周辺海域は、グローバルなサプライチェーンにとっての弱点と言える。世界で最も船舶交通量の多い海域の一つが、無政府状態となっているソマリアの沖なのだ。スエズ運河を通過して地中海に向かう船は、標的になりやすい。世界銀行によれば、ソマリアの海賊による襲撃は、世界の貿易にかかるコストを年間180億ドル(約2兆円)押し上げていると推計されている。
また、国際海事局(IMB)によると、2011年には237件発生していた襲撃事件はそれ以降、海運会社などによる警備の強化や、国際的な協力体制の整備により、減少に向かった。だが、最近ではこの海域を通過する船舶の側に油断が見られるようになっていたとの声もある。「アリス13」は運行日数の短縮と経費削減のため、あえて危険な海域を航行していたとも指摘されている。
ワルドハウザー司令官は、どの船舶もこの海域が今も安全とは言えないことを認識し、近道を選べば大きな代償を支払うことになる可能性があることを忘れてはならないと警告している。