番組には、グーグルの元幹部トリスタン・ハリスが登場した。ハリスによれば、私たちは「テクノロジーは中立だ」と誤って信じ込ませられている。そして、テクノロジーは実際には、私たちの脳が持つ「習慣化」する傾向を利用できるように操作されており、業界関係者らはそれを「脳のハッキング」と呼んでいるという。ハリスはこのハッキングが、私たちの集中力や人間関係を「破壊している」と警告する。
アプリ開発者らが脳の「習慣化」する傾向を“コード化”することに成功し、携帯電話を通じて長い時間をかけて私たちを「依存」させているのだとすれば、彼らは脳のどのようなダイナミクスを利用しているのだろうか?ハリスは問題を「依存」の視点から説明した。だが、筆者はそれよりも、脳の「報酬を求める」特性がこの問題に大きく関わっていると見ている。
脳報酬系
この議論においては、「報酬」が意味するところは幅広い。例えばフランス語を学ぶことからデートすること、カードゲームをすることなど、何でも脳にとっては「報酬」と呼び得る。私たちはあらゆるタイプの報酬を求めて行動する。それは、私たちが何かを学ぼうとする理由でもあり、習慣が形成される原因でもある。
私たちの脳がどのように世界(有形、無形を問わず)と関わるかの中心にあるのが、脳のこの機能だ。そのため、私たちを何かに夢中にさせることに関心を持つ人たちは、長い時間をかけてこれに関する研究を重ねている。
予測
報酬系は報酬の予測に基づいて機能する。アプリ設計の成功のカギとなるのは、思考と報酬、報酬の受け取りが繰り返されるタイミングを操作することだろう。
私たちは常に、次に得られる小さな報酬、そしてさらにその次、と際限なく報酬を期待しており、私たちの注意力も、報酬の予測に支配されている。フェイスブックやインスタグラムに投稿することで、何か本当の報酬が得られることはわずかだ。私たちはより多くの報酬を得るため、自分の報酬系のサイクルに貢献しようと投稿し、反応を待つ。この強迫的な(やめられない)報酬の予測を引き起こしているのは、何だろうか?
不安
強迫的なテクノロジーの使用を説明するのは、私たちが持つ「不安」だ。テクノロジーは、何もすることがない時間を埋めてくれる。そして、既にすべきことがある時間(目の前にいる人との会話中など)にまで入り込んでくる。
そして、不安をさらに大きくしていくのが、私たちが常に抱えている「大きな報酬を受け取り損なうのではないか」という不安だ。これは、私たちの脳の働きの大きな原動力を説明するものだ。「FOMO(Fear of Missing Out、何かを逃す不安)」はスラング専門のオンライン辞書、アーバン・ディクショナリーにも掲載されるようにもなっている。
孤立
何かを失う感覚と不安が結び付けば、「孤立している」という意識がもたらされる。脳が既に不安を和らげる習慣を確立しているときに、その習慣を混乱させるようなことが起きれば、そこで結果として予測されるのは、不安の増大だ。
誰もそのようなことが起きるのは望まない。だからこそ、私たちはそうした感覚を持たずにいるために、いつでも身近にスマホを置いておかなければならないという気持ちに駆り立てられる。
このように考えてみても、私たちはスマホに「依存している」といえるのだろうか?筆者の考えでは、そうではない。ただ、私たちはスマホを使うことで、ストレスや不安に対応し、バランスを取ろうとしている。そうした強迫的な習慣を身に付けてしまったことは間違いない。