近年、中国からのインフラ投資と貿易取引は拡大しており、直接投資の認可額は1994年から2016年の累計額でみると中国が1位。2015年の輸入額は1位のタイに次いで中国が22%を占める。昨年10月には習近平国家主席が初めてカンボジアを訪問し、フン・セン首相と会談。低利融資や投資に関する交換文書に署名し、約8900万ドルの債務免除に関する覚書に署名した。
南シナ海問題においては、カンボジアは一貫して中国寄りの姿勢を示している。2012年7月のASEAN外相会議はカンボジアが議長国を務めたが、カンボジアが中国寄りの姿勢を示し、共同声明が採択できない異例の事態となった。昨年7月の仲裁裁判所の判断に対しては、フン・セン首相は、「カンボジアはASEANのいかなる声明の作成にも参加しない」「当事国間で解決すべき問題である」との立場を表明した。
カンボジアは、1993年に内戦が終結した後、国際機関と欧米諸国から経済支援を受けて復興を進めてきた。国際社会からの支援を継続させるために、カンボジアは人権と民主主義を確立させる必要があった。国連やNGOはカンボジアで活動を続け、選挙や政府の活動の監視を行っている。
しかし、近年、中国との関係が緊密化したことにより、国際機関や欧米諸国からの援助に対するカンボジアの依存は相対化した。このことが、人民党政権による強権的な政治運営を促す一因になったと考えられる。
また、トランプ米新政権の出現がこうした動きをさらに後押しするとも考えられる。
トランプ大統領は、東南アジアに対する考え方や政策を明確に打ち出したことがない。ミャンマーの民政移管、タイのクーデター、ベトナムとの関係強化、環太平洋パートナーシップ(TPP)などに対して深く関与したオバマ前政権に比べると、地域へのコミットメントに対して熱心でないように見える。特に、人権と民主主義の問題に対しては、ロシアのプーチン大統領に対する融和的な姿勢をみても、強いこだわりがないように見える。
冒頭のフン・セン首相の大統領選におけるトランプ氏に対する支持表明も、こうしたトランプ大統領のスタンスを考慮したものだったと考えられなくもない。
経済の活況と日本企業の進出
カンボジアの経済は2011年から2015年の平均で7.2%と高い成長率で順調に発展しており、今後も7%台の成長率を持続するとみられる。一人当たりGDPも年々増加しており、2011年は878ドルだったが2015年には1,144ドルに達した。プノンペンでは2,500ドルまで増加している。
筆者も、昨年、プノンペンを訪問したが、建設ラッシュ、車やディーラーショップの多さ、ファーストフード店やレストラン、ブランド店の充実は目を見張るものがあり、活況を呈していた。2014年にはイオンモールが開業したが、店内の雰囲気は日本のイオンモールと変わらない。
好調な経済を支えるのが外資の流入である。1994年の投資法制定以来、カンボジアは、安価な労働力、緩やかな外資規制、豊富な工業団地、メコン地域の真ん中という地理的優位性から、多くの外国企業を惹きつけている。日本企業の進出も続いており、2016年の対内直接投資の認可額において日本が初めて1位となった。
筆者も、すでにタイやベトナムに進出している製造業の企業から、さらなる生産拠点の拡張先としてカンボジアを考えているとして相談を受けることが多い。今後は、中国からの生産拠点のシフト(チャイナプラスワン)やメコン地域内の水平分業(タイプラスワン、ベトナムプラスワン)が一層進むことが予想される。
フン・セン首相率いる人民党政権の強権的なリーダーシップは、法の支配という観点からは後退しているようにも見えるが、政治的な安定は投資環境の改善につながる。人民党政権は、長年にわたる一党支配が生み出している問題を認識しており、若い人材の登用、汚職対策等に取り組んでいる。
メコン地域の連結性の向上は、ASEAN全体の発展にとっても大きな意味をもつプロジェクトだが、カンボジアはその中核に位置し、日本も南部経済回廊を中心に積極的な支援を行っている。政治の安定と経済の発展を実現させつつ、同時に法の支配を確立させることがカンボジアにとって今後の課題となろう。