人材不足に悩むIT業界を救う、カンボジアのエリート養成大学

リゾート経営学科、デザイン学科だけでなく、今後は建築学科も設立。デザイン、IT、建築などが融合した人材も輩出していく。大学とリゾートが連携することで、小手先の知識ではないPBK(問題発見解決型学習)の実践知を学ぶことができる。

国立公園の土地を利用したリゾート学園都市を作るー。連続起業家・猪塚武が打ち立てる「vKirirom」構想は、人材不足に直面する日本企業に突破口を提供する。


ITコンサルティングファーム勤務後に起業し、ウェブアクセス解析ツールのリーディングカンパニーに育て上げた実績を持つ猪塚武。彼が新たな拠点として選んだのは、カンボジアだ。土地ならではの自然を生かした観光体験を提供すると同時に、ITを中心とした人材育成を事業の柱として体系化する。2016年4月、4年制大学の認可を取得し、全寮制の「キリロム工科大学」として新たなスタートを切った。

「刻々と変化するIT業界において、知識と技術を持った人材確保は急務です。世界に通用する人材をもとに、これからの日本の未来をより良いものにしたいんです」
 
日本での起業経験がある猪塚は、IT業界の人材不足解消の切実さを身をもって体感している。親日的なカンボジアを人材育成の場に選んだのも、育った人材が日本で活躍してくれることを見越した、日本を愛する彼ならではの思いと計算があるからだ。

入学してくるのはカンボジアの上位1%の先鋭たち。リゾート開発を学習材料としてERP(企業資源計画)を学び、POSシステムの構築、ウェブサイト開発やマーケティングの実地教育としている。公用語は英語だ。
 
4年間の勉強漬けの生活を可能にしているのが、企業スポンサーからの奨学金。奨学金の返済義務は、卒業後にスポンサー企業に4年間働くことで免除される。つまり企業にとっては単なる慈善事業ではなく、人材投資なのだ。即戦力となる新人を4年間かけてじっくり育成することで、採用コスト削減にもつながる。また、グローバルな人材を採用することで、他の社員の意識を啓発し、好影響を与えることも期待できる。

「全寮制の教育環境だからこそ、好きなだけ研究や技術錬成が行えます。18年には初の卒業生がKITから巣立っていきます。卒業生が日本の企業で働いたり、一緒にアジアでビジネスをしたりする先に、新たなアジアネットワークが生まれてくるはず」

奨学金スポンサーとしては、すでに、ワークスアプリケーションズやクアッドなどのIT会社が参加。石黒不二代などの業界の礎を開拓した人物や、食文化を追求する坂本大地らがエンジェルとして投資。ほかにも学習塾運営のこうゆう代表高濱正伸、高松琴平電気鉄道代表取締役社長真鍋康正なども投資を決め、コンドミニアムスポンサーとしては元陸上選手の為末大が参加している。優秀な若者を世界に通用する人材へと磨き上げる、梁山泊のような場所としてカンボジアでも期待されている。


猪塚 武◎A2A Town(Cambodia) Co.,Ltd President。早稲田大学理工学部物理学科、東京工業大学大学院理工学研究科修了。アクセンチュアを経て1998年に株式会社デジタルフォレスト社を設立。会社売却後の2010年、シンガポールに移住。14年にカンボジアのプノンペンに移住。高原リゾート、大学、産業クラスターを含む「リゾート学園都市vKirirom」を経営。

文=江口晋太郎、写真=セドリック・ディラドリアン

この記事は 「Forbes JAPAN No.31 2017年2月号(2016/12/24発売)」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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