4. プレイングマネージャーではない、「マネージングリーダー」であれ
酒井氏は、自身の介護経験を活かしてKAIGO LABというメディアを立ち上げ、KAIGO LAB SCHOOLの学長としても介護問題に取り組んでいる。これまで多くの男性介護者を研究してきた氏によると「男性介護のほうが破綻しやすい」と危惧する。残念ながら、介護殺人や虐待などのニュースは男性介護者に多いのも事実だ。
そんな男性介護者に勧めるのは、「マネージングリーダーになれ」ということだという。つまり、なんでも自分でやってしまうプレイングマネージャータイプよりも、ひとりひとりの介護に関わってくれる人たちの特性や強みを把握しながら、人材をうまく使い、目的や成果に結びつけていくというやり方だ。仕事場で得たマネジメント理論こそ、介護の場に応用できるはずなのである。
5. 介護人脈をつくる
介護はチーム戦だ。孤立して戦えるものではない。ひとりで抱え込まず、プロや周りのひとたちの助けを得ながら向き合っていく。これこそが男性の目指すべき介護者のあり方だ。では、どうやってその介護人脈を見つけていくのか。
統計的な事実ではないものの、介護現場からの聞き取りで見えてくる男性介護の特徴があると酒井氏はいう。それは、「介護に限らず、男性はとかく見栄を気にするので、SOSを発することに恥ずかしさを覚え、すべて自分で片付けようとしてしまう」ことだ。結果的に周囲に相談をすることができず、介護を抱え込んでしまう傾向があるという。また「男性はまじめすぎて一生懸命になり、頑張りすぎる特徴がある」とも指摘。しかし、大事なのは結果であり、プロセスではない。
具体的なアクションのとり方としては、介護のプロに助けを求めるだけではなく、家族会のような介護情報の集まるところに参加すること。男性は新たな集団に入ろうとするとき、マウンティングがあり、それが嫌で足が遠のいてしまうことも多いそうだ。
しかし、男性は一旦覚悟を決めたら勉強を楽しめる側面をもつ。介護のための多くの「知」を集めていくことを目的に、同じ悩みを持つ仲間を作るためにも介護人脈を作っていくことが肝要だ。
6. 成長の機会ととらえる
介護はときに介護者から時間や労力だけでなく、仕事や人生まで巻き取ってしまうことがある。しかし、それは気持ちや準備の仕方次第で、回避したり、乗り越えたりすることが十分に可能だ。
周囲の助けを獲得しつつ、自らの介護の量を減らしていく。そして、目標を立て、その達成を楽しむくらいの気持ちで臨む。特に男性介護者は、自らが仕事上で学んだ理論や経験が大いに活かせる。
酒井氏は最後にこう述べた。「『介護とは、すべての人に与えられる絶好の成長のチャンス』である」、と。
酒井穣(さかいじょう)◎BOLBOP代表取締役。事業構想大学院大学・特任教授。NPOカタリバ理事。ビジネスパーソンに向けた介護情報サイトKAIGO LAB主宰。自身の20年以上に及ぶ介護経験を、お蔵入りさせるのではなく、広く介護に悩んでいる人々と共有したいという「想い」からKAIGO LABを立ち上げた。誰もが自分らしく生きられる社会の実現を目指す。
奥田浩美(おくだひろみ)◎ウィズグループ代表取締役。株式会社たからのやま代表取締役。IT関連の巨大カンファレンスを運営し成功に導くかたわら、起業家のスタートアップ支援を積極的に行う。また、自身が5年以上の遠距離介護のさなかであり、介護関連のプロジェクトを開始。介護分野におけるロボット検証・共創の取り組みをはじめ、ITを通じて地域格差や高齢者問題などの社会問題を解決する取り組みを行っている。