企業や社会にとって、その2025年を前に仕事と介護を両立させる仕組みづくりが喫緊の課題となっている。介護離職をなくすためにはどうすればいいのか。また、今後増えると見込まれる、男性介護者が気をつけなければいけないこととはー。
現在、人材育成やコンサルティング事業を展開する企業を経営し、事業構想大学院大学で特任教授などを務める傍ら、私生活では20年以上にわたり母親の介護を続ける酒井穣氏。そして、実家・鹿児島で要介護の父親、老老介護を行う母親を支えながら「IT業界の女帝」として日本のスタートアップシーンをリードしてきたウィズグループ代表の奥田浩美氏。
東京ウィメンズプラザで開催されたイベント「変わる・変える・男性の介護〜『他人ごと』ではない『自分ごと』の介護とは?〜」で、両氏に介護問題解決のヒントを聞いた。
1. 介護離職をしない
昨今の高い未婚率や兄弟姉妹数の減少傾向、専業主婦というリソースの低下、施設入居の難しさなどを背景に、働きながら介護を行う人は確実に増加傾向にある。これにともない、従来の主たる介護者であった女性に加え、男性も介護を担うようになってきた。特に東京都では、介護による男性の離職者が全国を上回るペースで増加している。
「何よりもまず、絶対に介護離職してはいけない」と酒井氏はいう。介護には3つの負担がある。肉体的・精神的・金銭的な負担だ。負担を減らしたいがために選択する離職だが、結果的に「肉体的・精神的・金銭的負担の3つ全て上がってしまうことが明らかになっている」と指摘する。
「介護離職をして、その後、新たな職場で仕事を得たとしても、年収は男性で4割減、女性で半減というデータもある。これもあくまで次に仕事が見つかった場合。現実は、再就職まで1年以上かかっているケースが大半で、金銭的な負担が確実に増す」
しかし問題は個人の金銭的負担にとどまらない。介護離職は国にとっても大きな問題だ。労働力の喪失による経済成長の妨げ、さらには、税収の減少というかたちでじわりと日本にきいてくる。「介護離職を…」と考えた時、一回立ち止まる。この勇気が必要だ。
2. 「あいうえお」に縛られない
奥田氏は「私たちは『あいうえお』に縛られすぎている」という。「あいうえお」というのは、「あ:あきらめ」「い:いいわけ」「う:うしろむき」「え:えんりょ」「お:おもいこみ」のことだ。中でも、文化的背景から、昔から受け継がれてきて、現代にそぐわない価値観や評価軸からくるおもいこみは介護分野において非常にやっかいだ。
「『昔はこうだった』ということにわざわざ聞く耳を持たなくていい。だって、昔はヘルパーさんもいなかったし、システムも今とはまるで違うはず」と奥田氏はいう。
また、酒井氏も「実際、プロの介護専門職の方にお願いするだけで、親戚から怒られてしまうようなケースも聞く。しかし、そういうことの積み重ねが、介護者を追い込み、介護殺人や自殺につながってしまう」と警鐘を鳴らす。
だから、人を動けなくする「あいうえお」から、自ら解放される。そして、とにかく動いてみて、自分自身が納得・満足できるか、そこを目指してみる。
3. ためいきが出るところにチャンスがある
「なぜ転倒を回避できなかったのだろう」「どうして夜中の排泄を予知できなかったのだろう」
介護に向き合う人びとにとって、ためいきは避けて通れないものだ。しかし、奥田氏は指摘する。「ためいきがあるからこそ、そこからソリューションが生まれる。ためいきの交換をしていくことによって、同じ課題で人や地域同士がつながることができる」。
「介護というと、これまで女性しか集まらなかった。しかし、『介護の課題のソリューションを見つけましょう』『技術を使って介護状況を改善しましょう』という話をすると、どんどん男性がで出ててくれるようになった。男性は“社会性の動物”なんです。だからこそ、そのチャレンジの主体となってくれる男性が、今後この分野で活躍できるんです」
「ためいき」を見逃さない。ためいきが大きければ大きいほど、そこにはイノベーションのシーズが埋まっている。