韓国では朴槿恵(パク・クネ)大統領をめぐるスキャンダルが取り沙汰され、国民の政権腐敗に対する不満が高まるなか、李の逮捕は韓国最大の同族経営企業に根本的な変化をもたらすかもしれない。――しかし、それはサムスンの経営にとって決して悪いことではない。
調査会社Ovumのアナリスト、Daniel Gleesonは「李の逮捕によって、サムスンの企業構造を変えたいと願う投資家にとっては、願ってもないチャンスが訪れた」と指摘する。
サムスンの株式の半分以上は海外の投資家が保有している。なかでも「物言う株主」として有名な米国のヘッジファンドのエリオットマネージメントは、これまで1年以上にわたり、サムスンは2社に分割されるべきだと主張していた。
エリオットの主張は、経営者一族が支配する持ち株会社と、サムスン電子の実質的オペレーションを担う事業会社の2社に分けるべきというものだ。エリオットは以前から「サムスンの企業統治は不必要に複雑だ」と主張してきた。
分割によりサムスンの企業価値は上昇するとエリオットは提案を行い、サムスン側も昨年からこのプランの検討に入っていた。同社はまた、昨年11月に株主還元プログラムを発表。9兆3,000億ウォン(約9,000億円)の自社株を買い戻し、買い戻し株は消却すると述べていた。
サムスンの投資家の要望に応えようとする姿勢は昨年、60%以上の株価上昇をもたらした。これはアップルの同期間の上昇率の35%を大幅に上回っている。また、今年に入り、副会長逮捕への懸念が高まりつつある中であっても、サムスンの株価上昇は続いていた。逮捕が報じられた翌日にサムスン株は0.4%の上昇となった。
「サムスンを分割に導くために、一連の騒動は絶好の機会を与えた」とOvumのGleesonは言う。「サムスンの統治構造は複雑に入り組んでおり、通常の状況では分離は非常に難しかった」
政権の腐敗ぶりが連日報道される中、韓国を代表する巨大企業サムスンに劇的な変化が訪れる可能性は高まっている。サムスンのスマートフォン事業や有機ディスプレイ製造、半導体事業等の多様なビジネスは、個別の事業体として運営されており、経営トップの逮捕は多少の混乱をもたらすものの、個別事業の運営にさほどの影響は出ないだろう。
サムスンはかつて2008年に、資金スキャンダルが原因で当時の社長の李健煕(イ・ゴンヒ)が辞任したが、同社のビジネスはその混乱を切り抜けた。
「最悪のシナリオとしては今回逮捕された李副会長が刑務所送りになり、経営に復帰できない可能性もある。しかし、それがサムスンの経営に影響を与える可能性は少ない」とアナリストは述べた。