団塊の世代がここ数年で一斉に定年退職を迎えた。高齢者の医療費負担など社会福祉費用は今後増加するし、2017年1月から確定拠出型年金の適用範囲が拡大される。
かつてのように国が運用して十分な年金を支給してくれた時代から、自身で資産運用をする必要があり、自助努力を迫られる時代だ。一定の金融リテラシーを持つ一方で、将来への不安感は拭いきれない。それだけに「自分でなんとかしなくては」という意識が強い団塊の世代の中のこうした層が、退職金を手にマーケットに出てくることになる。「個人投資家の時代」だ。
資産運用を始めようと、証券会社に行くとする。証券会社には、たくさんの営業マンがいる。彼らは金融商品に関する知識を習得したプロだ。だが、どんなに会社が彼らの教育に投資して営業レベルの底上げを図っても、人間である以上、人によって成績に優劣がつくのは当然だ。
顧客としてお金を預けるなら、できるだけ運用成績のよいスーパー営業マンに当たりたい。だが、運用資産の額がある程度大きくない限り、スーパー営業マンが担当につくことは期待できないだろう。資産運用の裾野が広がる今後、個人投資家にはどんなサービスが必要なのか。
「資産運用を民主化したい」
こんな問題意識から始まったサービスが、ロボアドバイザーだ。「お金のデザイン」が提供する資産運用サービスの「THEO(テオ)」もその一つだ。16年2月から一般ユーザー向けにサービスを開始した。
人工知能やビッグデータの活用は、従来から金融業界で活用されてきた。ヘッジファンドや大手の資産運用会社は、より高いリターンを求めてテクノロジーを駆使している。
一方で、個人投資家向けのテクノロジー活用は、目的が異なる。必ずしも高いリターンを追求するのではなく、それぞれ個人の目的に合った資産運用という機能を提供するのが狙い。保有資産の額や収入、支出、家族の有無や趣味、年代、リスク許容度ロボアドバイザーが顧客のニーズを理解して、一人ひとりに合った運用方法を提案する。
資産運用研究の第一人者で、お金のデザインの運用手法を学術的な観点から監修した京都大学経営管理大学院の加藤康之特定教授はこう話す。
「ロボアドバイザーの導入で、顧客の回答に潜むバイアスも読み込み、適切なロジックで、最適なポートフォリオを提案できるようになるでしょう。スーパー営業マンのような大当たりはないけれど、ハズレが少ない。一部の富裕層だけでなく幅広い個人にも、一定水準以上のサービスを提供することを狙っています」
人間よりも品質にばらつきがないのがコンピュータを活用する意義だ。平均的に、均一で質の高いサービスを、低コストで幅広く提供するところに価値がある。加藤教授は言う。
「あまねく広い投資家に、スーパー営業マンの、(例えば)7掛けくらいの高品質のサービスを提供する。7掛けだけれども、世の中の銀行や証券会社の営業マンの平均値よりは高いところを目指す。そのレベルのサービスを均一に提供できるようになるのが未来の投資の姿です」
ロボアドバイザーがスーパー営業マンを追い越す日はこないのか。
「人工知能は人間が作った機械。スーパー営業マンのスキルは運用業務だけにとどまりませんから、機械が“自己学習”したとしても追いつくのは当面難しいでしょう。それこそシンギュラリティであり、今、想定する未来にはありません」
かとう・やすゆき◎東京工業大学大学院修士課程修了。京都大学博士。野村證券執行役金融工学研究センター長を経て京都大学経営管理大学院特定教授。「お金のデザイン」のアカデミックアドバイザー。