たとえ相手が「なりすまし」だったとしても、真偽を確かめるのは困難だった。だから間に信頼できる第三者を置いてやりとりを行う。第三者は銀行だったりアマゾンだったりいろいろだ。エアビーアンドビーやウーバーもこれにあたる。
ブロックチェーンは、このようなオンライン上のアイデンティティの問題を解決する画期的な技術だ。相手が他ならぬその人であることを保証し、しかも意図的な改ざんのできない仕組みになっている。
インターネットが情報革命を起こしたように、ブロックチェーンは人類に「信頼の革命」をもたらす。これが世界にとってどれだけ凄まじいインパクトになるかイメージできるだろうか。
たとえば世界には銀行口座をもてない人が25億人もいる。これまで信用を肩代わりする役割を担ってきた銀行を介することなく、彼らがスマーフォンで直接取引を始めたとしたら?そこにはいったいどれだけ巨大な経済圏が誕生するのか想像もつかない。
ブロックチェーンによって実現する社会を考えると、いま最先端だと思われている企業も過渡的な存在に過ぎないことがわかるだろう。ウーバーはしばしばタクシー会社から仕事を奪うと非難されるが、ブロックチェーンはウーバーのような第三者を介さずに運転手と利用者を直接結びつけてしまう。個人と個人がつながり、そこで取引が成立してしまうのである。つまりブロックチェーン技術をもってして初めて、真のシェアリング・エコノミーが実現するのだ。
本書はそんなブロックチェーンを「信頼のプロトコル」と呼ぶ。
データが記録されたブロックが一定の時間ごとに鎖のように連なっていくブロックチェーンは、改ざんを試みても前後のブロックとの辻褄があわなくなるためにすぐにバレてしまう。また高度な暗号技術によって守られていて、侵入しようにも膨大な計算をしなければならず割があわない――。実によく考えられたシステムなのである。
中央集権的なシステムではなく、サーバーを介さず個々の参加者が直接やり取りする、P2Pと呼ばれるネットワークに支えられているのもポイントだ。中心がなく分散されているために何者かに乗っ取られる心配がない。
もしかすると、ここに至ってもまだブロックチェーンのインパクトをイメージできない人がいるかもしれない。それでは、ひとつ例を挙げよう。
2010年に発生したハイチ地震は、犠牲者31万人を超える未曾有の大災害となった。赤十字には5億ドル超の寄附が集まったが、その後の調査で、なんと募金のほとんどは現地に届く前に浪費されてしまったことが明らかになった。赤十字は現地に13万軒の住宅を建てると約束していたにもかかわらず、実際に建てられたのはわずか6軒だったという(*1)。
赤十字の責任のみならず、現地政府がまともに機能していなかったのも要因のひとつだが、ブロックチェーンが力を発揮するのはまさにこういう場面なのである。
(*1追記)上記は本書「第7章 豊かさのパラドックス」の中の「ブロックチェーンによる対援助と災害復興」に基づく記述だが、日本赤十字より、住宅の建設のほかに壊れた家の修繕や借家の家賃補助など生活再建の支援なども実施しているというご指摘をいただいた。これにより、135,000人が安全な家や環境で暮らせるようになったという。
また、ハイチ地震による被害を詳しく知りたい方は、現地で30年にわたって無償医療活動を行ってきたに医師ポール・ファーマーの『復興するハイチ 震災から、そして貧困から 医師たちの闘いの記録2010-11』岩田健太郎訳(みすず書房)の参照のこと。