だが経済学者エルナンド・デ・ソトによれば、こうした指摘は誤りだ。彼は「本来、アラブの春は起業家精神に満ちた革命」であるとし、アラブの春は、権利を踏みにじられ、既存の体制を超えて行動を起こすしかなくなった市民による「きわめて大規模な反逆」だと言う。
そこで考えたいのが、ブロックチェーンだ。ブロックチェーンとは、何百万ものデバイス上で作動する国際規模の分散型基本台帳、あるいはデータベースのことである。誰でも使うことができ、情報だけではなく金銭から個人情報、投票に至るまでのあらゆるものの機密性を保ちつつ、移行や保管、管理することができる。
そしてブロックチェーンでは、政府や銀行などの強力な仲介者ではなく、大勢の人との連携や優れた規則によって、信用が築かれる。ブロックチェーンの設計原理は、民主化の推進力となるはずだ。どのような貢献を期待できるか例を挙げてみよう。
1. 価値が増す
出生時に、人それぞれに本質的に備わっているアイデンティティーをブロックチェーンに入れることで、誰もが法のもとで人として認められることになる。学位やパスポート、有権者IDなど、複数のデータベースに入っているそのほかの個人情報も1か所に集約できるので、何度も手続きをしなくても統合されたサービスを受けることができる。
そして自らで自分の全データを所有し、それをどう展開させるかも決められる。投票がより価値を持つようになる。
2. 誠実な社会に
政治制度に対する国民の信頼を取り戻すために、政治家たちは誠実さをもって行動しなければならない。極端な透明性を支持するブロックチェーンは、利害関係者とその代表者との間に信頼を築く上で中心的役割を果たす。
例えば有権者は、選挙戦で誰がどの候補者に寄付をしたのかを詳しく追跡できる。測定可能な成果が達成された場合のみ資金を拠出する「成功報酬モデル」を利用して、イノベーションを奨励したり望ましい成果に対してインセンティブを与えたりすることもできる。
3. 透明性が高まる
誰にでも政治に参加する権利がある。選挙で選出された者は誰であれ、透明性をもって職務に取り組まなければならない。
ブロックチェーンを使えば、市民は政府の公文書を、不変かつ不正を許さない台帳に登録するよう提唱することができる。そうすれば、例えば銃の購入希望者の身元調査を、権限を持つ一部の者の間での抑制と均衡だけでなく、多くの人の幅広い総意を基に行うことができる。