「確かに当たっている部分もあるでしょう。しかし最初はグッチの変化をできるだけ力強く世界に示すことが必要でした。だからルールを破ろうと決めたのです。そして当初の目的を達成した今、『GUCCI DIY』というサービスを始めました。これはミケーレの美意識に顧客が自分なりのヒネリを加えて楽しめる最高の遊び場ですが、同時に、私や銀行家など一般的な職業のビジネスマンを意識したアプローチでもあるのです」
「GUCCI DIY」とは、ディテールのカスタマイズプログラムで、6月にミラノの旗艦店でスタートして大成功を収めている(日本は来年に導入予定)。該当アイテムはハンドバッグから始まり男女のシューズ、ウェアに拡大。特にメンズはジャケットやブレザー、タキシードなど幅広く展開中だ。男性客に向けても、このように徐々にフォーマルなアイテムに力を注ぐなど、抜かりない対応を考えているようである。
顧客とのコミュニケーションがカギに
では今後のアジア市場の可能性、さらに日本市場の展望について、ビッザーリはどのようにとらえ、どのようなアプローチを準備しているのだろうか。
「アジアのラグジュアリー市場は成長を続けています。消費者が求める洋服の質が明らかに変化してきました。この数カ月、グッチは幸運なことにアジアでも健闘し、経済停滞が危惧される中国においてさえ、大きな結果を残しました。これからは今まで以上に革新的でリスクをいとわない者が勝ち残っていくと考えます。また日本が、グッチにとって大変重要な市場であることは変わりません。日本では約70店舗を展開し、売り上げは全体の約10%を占めています。
私たちが日本でまずやるべきは、日本の方々にグッチの変化をわかりやすく伝えること。だからこそ、『GUCCI 4 ROOMS』のイベントを銀座で開催し、秋冬の広告ビジュアルは日本で撮影したのです。日本市場の競争が激しいことは重々承知していますが、近々、よりよい結果を出せると確信しています」
「デジタル化」は必要不可欠
世界中から熱狂的に受け入れられたビッザーリ&ミケーレの新生グッチ。その熱が冷めやらぬうちの次なる一手について、最後に彼はこう語ってくれた。
「私たちは顧客とのコミュニケーションをとても重要視しています。その表れのひとつがデジタル化の推進。特にミレニアム以降に生まれた若い世代とつながるためには当然のこと。ただ、これは戦略というよりは必要不可欠な手段です。ほかにも店舗ディスプレイや印刷媒体など、あらゆるタッチポイントを顧客とのコミュニケーションに活用します」
「『GUCCI DIY』や『GUCCI 4 ROOMS』も同様です。特に後者はデジタルと実体験を融合させた面白い試みだと思っています。私たちの変革は始まったばかり。次は“拡大”ではなく、今まで行ってきたことを相互に連結させ、さらなる成長を目指すつもりです」
確かに“ビッザーリ・エボリューション”はまだ序章。彼の明晰な頭脳は次々と新戦略を生み出すことだろう。ファッション界を席巻するグッチ旋風の行く先が、これからますます楽しみである。
マルコ・ビッザーリ◎1962年生まれ。イタリアのマンダリナ・ダック・グループ、フランスのマリテ+フランソワ・ジルボーなどを経て、2005年英国のステラ・マッカートニー社長兼CEOとしてケリンググループに加わる。2009年にはボッテガ・ヴェネタの社長兼CEOに就任。15年1月より現職。ケリング・クチュール&ラグジュアリー執行委員会のメンバーでもある。