ライフスタイル

2016.11.25 12:00

ホスピタリティの達人が挑む、高級サービスの激戦区ワイキキでの新たな挑戦

10席しかないカウンターは、一日2回転限定のプレミアムな空間。「寿司はライブ。カウンターで食べる楽しみを知ってもらいたい」と、大将の中澤はテーブルが主流になった欧米の寿司文化に挑戦する。

ラグジュアリーホテルの王者、リッツ・カールトンが今年7月、ワイキキにレジデンスホテルをオープンさせた。誰もが認める最高レベルのホスピタリティを誇る同ホテルがテナントレストランとして迎えたのが、江戸前寿司の最高峰「すし匠」初の海外店だ。

30年以上の経験を経て総支配人に就任したベテラン、ダグラス・チャンと、9月にのれんを掲げたばかりのすし匠大将・中澤に、もてなしの極意を聞く


ダグラス:すし匠には、日本の伝統的な空気がありますが、魚は日本から取り寄せるのではなく、ハワイでとれた食材を使っている。このような寿司店は、これまでハワイにはありませんでした。

中澤:ハワイにない凛とした空気の流れる空間に、敢えて挑戦したかったんです。でも、食材は地元でとれたものを使うことにこだわりました。

ー魚は南国よりも涼しい国のものが美味しいというイメージが一般的かと思いますが。

中澤:確かに漁師の腕と魚屋の手当ては、日本が群を抜いて世界一ですが、技術的なことはきちんとコミュニケーションを取れば他の国でもまかなえます。しかし魚の餌だけは別なんですよ。それを補うのが職人の腕の見せどころだと思いますし、できなければ所詮私もそれまでの人間ということです。

ダグラス:最高級のホスピタリティを追求するすし匠と当ホテルの相性は抜群だと感じています。

中澤:私は、実は最初はハワイに来る気はなかったんです。それが、このホテルができると決まったときに声をかけていただいて「こんな素敵なところでやらせてもらえるなら挑戦してみようかな」と決心しました。

中澤:この4、5年の築地は様変わりしました。世界の富裕層が日本の魚を求めるようになり、美味しい魚がどんどん国外に飛んでいます。それが原因で魚が高騰して、もともと1万円のウニに7万円の高値がついたりしているんです。アメリカの西海岸に行っても、流行っている店はみんな日本の魚を使っていて、このまま行くと、オリンピックの頃までには日本人が日本の魚を食べられなくなってしまうんじゃないかというような現象が起きています。

ダグラス:ハワイには、輸入品ではなく地元でとれた新鮮な食材への志向を持つ人が多いですよ。

中澤:それが、ローカルの人も実は日本の食材を食べたがっていることがわかったんです。「北海道のウニはないのか」とか、「大間のマグロが食べたい」とか、「コハダはないのか」なんてしょっちゅう言われます(笑)。うちはハワイでとれた魚を使いますからって言っているんですが、やっぱりそういう日本のものを期待するんですね。

ダグラス:そこまで日本の食材にこだわる人が多いというのは意外です。

中澤:にぎり寿司というのは、海鮮寿司と江戸前寿司に大別されます。海鮮寿司は、新鮮な魚を生のまま握る。他方、江戸前寿司は、シャリに合わせて必ず塩や酢を当てる「手当て」という工程があるんです。ハワイでは海鮮寿司が主流で、寿司は必ず生を握るものだと思われています。

ダグラス:江戸前はあまり知られていませんね。

中澤:私が寿司の世界に入った38年前は、日本でも生であることが至上であるとされていたんです。でも、エビは生の「踊り」より、ボイルした方が寿司に合う。日本人もようやくそれに気がついて今、東京を中心に江戸前寿司のほうにシフトしているんです。

ダグラス:それは知りませんでした。

中澤:日本でも30年以上かかりましたからね。時代の正義というのは常に変わるものなので、いつかハワイの気候にも江戸前が根づく日が来ると思っています。
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構成=水口 万里 写真=青木倫紀

この記事は 「Forbes JAPAN No.30 2017年1月号(2016/11/25発売)」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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