ダグラス:当ホテルでは、「お客様から頼まれることがないように」というのをモットーにしています。お客様が何を欲しているのか考え、常に先回りして動くように従業員の教育を徹底しているのです。ネイティブ・ハワイアンの文化には、もともとホスピタリティの心が息づいていますが、リッツではそのアロハスピリットを洗練された形で提供したいと考えています。次世代の教育も大切です。
ーもてなしの心というのは、教えられて身につくものなのでしょうか。
中澤:我々職人というのは感覚で生きていますから、弟子への教え方も正確ではないんです。あるとき、ニューヨークの有名シェフが店に来て私に聞きました。「あなたは下の人間にそれを正確に教えられるのか」って。そのとき私は、コハダに塩を振っていたんです。「手で振ると量がぶれる。うちでは缶に穴をあけて、正確に2振りというふうに教えている」と言われました。
ーシェフの世界にもマニュアルがある、と。
中澤:そう。一見、彼の言うように缶を使うのが正解に思えるでしょ。でも、缶で教えてしまったら、その子は缶を使わないとできなくなってしまう。職人を育てるということは、正確さではなく、感覚を教えていくということなんです。
ダグラス:当ホテルの場合は、かなりしっかりとしたトレーニングのマニュアルがあります。しかし、ホスピタリティにおいて一番重要な“人間性”はマニュアルで覚えられることではありません。ですから、良きお手本を見つけさせ、仕事以外のプライベートな相談を含めたざっくばらんなコミュニケーションを取らせるのが重要だと思っています。
中澤:ずっと一緒にいると、言葉で伝えなくても目でわかるようになってくるんですよね。うちの場合は、だいたいみんな朝の9時に出勤してきて、夜中の2、3時まで店にいる。17時間くらいずっと一緒にいますから、必然的にみんな似てきます。東京の店では、風呂がひとつしかない場所で寮生活をしていますから、気遣いなんかも自然にできるようになります。
ダグラス:従業員は自分の子どものような存在ですから、彼らが成長していくのを見るのは、これ以上ない喜びです。タオルを渡す役から始まった従業員が、今では総支配人候補になっていますから。
中澤:私は今、ハワイのローカルの職人を育てていきたいと思っているんです。これはある意味マイナスからのスタートなんですよ。職人の感覚を教えるのに長時間労働は必須ですから、そういう働き方を説得するところから始めないといけない。それには、まず私自身がきちんと背中を見せることが大切と思っています。未来の景色を想像させないといけませんから。
ダグラス・チャン◎ザ・リッツ・カールトン・レジデンス ワイキキビーチ総支配人。ザ・リッツ・カールトン・クラブ&レジデンス カパルアベイ、ザ・リッツ・カールトン セントルイス総支配人などを経て、現職。30年以上にわたる高級ホスピタリティの経験を持ち、ハワイ州観光局の理事、会長、副会長を歴任。
中澤圭二◎すし匠大将。全国の寿司店や割烹料理店など、様々な店舗での修業を経て、26歳で「すし匠 さわ」、30歳で「すし匠」を開店。2016年よりハワイ・オアフ島に移住し、ザ・リッツ・カールトン・レジデンス ワイキキビーチ内のテナントとして、すし匠初の海外進出を果たす。
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