国際線で勝負する、ANAホールディングス「攻めの姿勢」の理由

片野坂真哉 社長(Photo by Hironobu Sato)

2016年3月期決算では連結営業利益1,364億円(前期比49%)の過去最高益を記録。社長就任1年目の好業績は「『やんちゃさ』や『気概』」を持った”大きな挑戦”の通過点に過ぎない社長力ランキング2016 6位】。社長就任1年目の好業績は「やんちゃさ」や「気概」を持った”大きな挑戦”の通過点に過ぎない。


2015年4月の社長就任直前、副社長時代に自ら提案した10年後を見据えた「長期戦略構想」を発表。25年度の営業収益2兆5,000億円(14年度1兆7,134億円)、営業利益2,000億円(14年度915億円)という壮大な目標を掲げ、国内線と国際線の売上高が逆転する未来像を描いた。その長期戦略構想の社内向け配布冊子の裏表紙に「次は宇宙へ」という野心も記すなど、“やんちゃさ”を持った挑戦がはじまった。

ー「長期戦略構想」で打ち出した、25年度の営業利益2,000億円の目標値。16年1月に出した「中期経営計画」ではその5年前倒しを発表した。

かなりアグレッシブにした。20年の東京五輪に向けて羽田・成田両国際空港の発着枠が約8万回増加する(注:現状の1割以上)。最大のビジネスチャンスがあるので、しっかりと“風に乗る”必要がある。だから、通常3年間の中計を5年にし、攻めの計画を打ち出した。

さらに「国際線で成長する」と明確にした。売上高計画を見ても、国際線は15年度の5,156億円から20年度は7,240億円へ増加し、国内線の売り上げを逆転する。国内線は6,856億円から6,900億円と横ばいだ。社員の中には国内線で働く人が多く、「国際線が重要だ」というと国内線の社員にモラル低下が起きると弱気になり、「国内も大事。国際も大事」というメッセージになりがち。あえて「国際線で勝負する」という宣言をした。

長期戦略構想にも「10年後には南米、アフリカ」と記したが、世界中に新規路線を拡充する。世界大手の航空会社は、地球の反対側まで航路を持つ。中期経営戦略で「世界のリーディングエアライングループへ」と打ち出し、「国際線で」と決めた以上、収益を出せる路線を選びながらだが、地球規模の路線を持ちたい。

16年を見ても、成田ー中国・武漢線、成田ーカンボジア・プノンペン線を就航するほか、業務・資本提携したベトナム航空とのコードシェアを開始する計画だ。17年からはメキシコ直行便の運航も開始する。

ー「エアライン事業領域の拡大」とともに「新規事業の創造と既存事業の成長加速」を掲げる。

社長就任時は、伊東信一郎社長が過去最高益を出した直後。社長1年目の業績予想も最高益の更新、増収増配。プレッシャーだ(笑)。こうした好業績を続けていくには、多くの売上高、利益を担う国内線事業、国際線事業を伸ばしていくとともに、それを支える事業づくりをする必要がある。

代表例は、貨物事業や格安航空会社(LCC)事業、旅行事業や商社事業などだ。とはいえ、盤石とは言えず、中期経営計画に「強化」を打ち出した。とくに、成長の原動力には「イノベーション」が必要だと、ドローンや人工知能(AI)、3Dプリンター、フィンテックなどを取り入れていきたいと「デジタルデザインラボ」という組織を新設。メンバーを、米・シリコンバレーに派遣した。
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文=山本智之

この記事は 「Forbes JAPAN No.28 2016年11月号(2016/09/24発売)」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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