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2016.10.22 15:00

「日本一短命の町」に企業が続々と参入する理由


調査開始から9年を経た2013年、弘前大学は文部科学省が進める国家的事業“Center Of Innovation”(COI)に手を挙げる。企業や大学単独では実現困難な研究開発分野において、革新的イノベーションを産学共同で実現することを目指すとしたこの取り組み。軒並み旧帝大系の研究事業が名を連ねるなか、中路らが地道に「精も根も尽き果て」るように集積したビッグデータの存在が高く評価されて、晴れて採択となった。

青森ローカルでの取り組みに、国のお墨付きが与えられると、様相は一変した。COIへの参画を希望する企業が続々と弘前を訪れ、プロジェクトは活況を呈するようになったのだ。

〈真の社会イノベーションを実現する革新的『健やか力』創造拠点〉ー。弘前大学が研究拠点となる弘前COIは、そんなタイトルを掲げた。画期的な点は、予兆の発見の仕組みを作り上げたことにある。認知症や生活習慣病になった人々のプロセスと、そのビッグデータの解析。ここから予防法の開発を目指す。

「このCOIの柱は、あくまで青森県民の健康づくりへの意識向上と短命県の返上。関わる企業がその主旨から逸脱すると、プロジェクトそのものの意味がなくなってしまう」と語る中路の頭には、一つの目標がある。新たな「健診パッケージ」の開発だ。

先にも触れたように、青森県民は健診結果を自らの健康づくりに役立てようとしない傾向が強い。つまり「健診する意味がない」状況が長く続いてきた。これを覆すため、健診結果を渡すだけでなく、その場で生活指導、さらに踏み込んで“健康教育”までしてしまおうという考えだ。

「健診技術の進歩で、近い将来多くの検査結果がその日のうちに出るようになる。そこで、それらの検査結果に基づいて、その人の健康状態と必要な治療、生活改善を、その場でデモンストレーティブに行うことで、自分の健康に意識を向けさせることができるはず」と、中路は言う。

このプランにはさらに先がある。

青森でこの取り組みが成功した暁には、この制度をパッケージにして海外に輸出しようという考えだ。

「ヘルスリテラシーが低く、様々な疾患についての問題を抱えている青森は、色々な意味で東南アジアをはじめとしたアジア諸国に似ています。ならば、青森県民の健康意識を向上させ、平均寿命を伸ばすことができれば、その仕組みはアジア諸国に向けた“輸出品”になるはず。政策と民間サービスをすべて組み合わせたモデルを標準化し、そのシステムパッケージとして海外に輸出するプランです。そのためにはパッケージの品質を高める必要があり、それが青森の“短命県脱出”の成否にかかっている」と語るのは、前出の村下だ。

寿命を伸ばすには住民の行動変容が不可欠であり、行動変容を起こすには健康知識が必要だ。その根幹となる知識を確実に植え付けるための新たな健診の仕組みづくりを目指し、これをビジネス化する目論見だ。
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文=長田昭二 イラストレーション=東海林巨樹

この記事は 「Forbes JAPAN No.27 2016年10月号(2016/08/25発売)」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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