「私はその店を自分の店であるかのように考えて働きました。ボスは私のことをとても気に入ってくれました」
渡米から3年間で二人は1万1,000ドルの資金を貯め、1984年にロサンゼルスで「ファッション21」という広さ約220平方メートルの衣料品店をオープンした。その場所の前オーナーも衣料品店を経営していたが、売上は年間わずか3万ドル(約300万円)だったという。
ファッション21は大量仕入れや製造元からの直接買い入れにより、劇的な低価格を実現し顧客の支持を獲得。初年度に70万ドル(約7,000万円)の売上を達成した。事業は順調に伸び、6ヶ月ごとに新規出店を繰り返した。これが巨大ファストファッション帝国「フォーエバー21」の創業当時の話だ。
「私は一文無しでアメリカに来た自分にチャンスを与えてくれたこの国に感謝していました。その恩返しをしたいとずっと思っていました」
米国を大不況が襲った2008年ですら、強力なキャッシュフローを武器に新規出店を加速。年間7,000名を新たに雇用した。年次総会の席で彼は事業の目的を「単に売上や利益を追うだけでなく、雇用を生み出すことがゴールだ」と述べた。
長年にわたり急成長を続けたフォーエバー21だが、近年は課題も抱えている。オンライン販売との競争が激化する中、ダウンサイジングも実施。昨年は旗艦店のいくつかを閉鎖した。2015年以降、売上は前年並みで推移している。
「衣料品業界をとりまく環境は厳しさを増しています」
近年は「経営不振説」も浮上
「リアル店舗に来店する客は減っています。でも我々は状況の変化に対する準備を怠ってはいません。確かに一時期は不調でしたが、今年はそれを乗り越える準備を整えました」
今年はじめ、フォーエバー21は業者への支払いを遅延させたとの報道が流れた。同社の仕入元業者の一つが171店舗に対する独占契約を破棄し、前年同期比で5割近くの売上減を記録したとも言われている。その件についても尋ねたが、彼は「我々のビジネスは以前と変わらず順調です」と答えるのみだった。
ここ数年、彼らの資産は減少したかもしれない。しかし、ドン・チャンは成功を図る物差しはカネではなく家族の幸せなのだという。あなたにとってアメリカンドリームとは何かという質問に彼はこう述べた。
「自分にとって人生で一番大事なのは家族です。アメリカンドリームというのは贅沢な暮らしを実現することだと思っている人もいます。けれど、ビジネスで成功しても家族が壊れてしまっては意味が無いでしょう」
フォーエバー21は今も非上場企業であり続け、家族経営のポリシーを貫いている。米国東海岸の名門私立大学を卒業した二人の娘、リンダとエスタ、そして彼の姪たちも同社の従業員として働いている。