映画「ふたつのクジラの物語」が問う、ノンフィクションのあるべき姿

photo by Koichi Kamoshida / gettyimages

鯨やイルカが生物分類上は同一の生き物であるということを知っている日本人はどのくらいいるだろうか。世界でも有数の捕鯨国日本にいながら、私たちはそんな基本的なことすら知らない。それゆえイルカ好きの欧米人たちが、あの知的でかわいらしいイルカを食べるとはなんて野蛮な行為なのだろうか、と言うのも理解できる。

そこをついたのが、2009年に公開された米国ドキュメンタリー映画『THE COVE』である。和歌山県太地町で行われているイルカ追い込み漁を題材とした反捕鯨映画であり、アカデミー賞を取るなど大きな反響を呼んだ。血で染まった海、惨殺されたイルカなどセンセーショナルな場面は世界的な反捕鯨運動を巻き起こした。

一方日本は、鯨食は日本の食文化である、と主張するだけで有効な反論をできずにいる。自分たちは牛を食べているのに、という議論も水掛け論にすぎない。

しかしその過剰な演出、事実誤認、歪曲編集などに疑問を持ち、鯨をめぐる世界の論争を公平な立場で伝えようとしたのが、佐々木芽生監督の『ふたつのクジラの物語』である。7年越しで制作してきた映画は今年中に完成の予定だ。

これは太地町で起こっている捕鯨論争を正確に伝えようとした映画であり、かならずしも『THE COVE』の向こうを張る反・反捕鯨映画ではない。目指したのは事実を事実として客観的に伝えることであり、反捕鯨か否かの判断は映画を見た者に託す。民を欺くノンフィクションのフィクション化はあってはならない、という気概を感じる。

文=高野真

この記事は 「Forbes JAPAN No.26 2016年9月号(2016/07/25発売)」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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