独占密着! グーグルの新CEOが描く「AI」で動くデジタル世界

グーグルCEOのサンダー・ピチャイ(Photo by Ethan Pines)


優秀さゆえの“落とし穴”

ショアラインのステージ上で、ピチャイはその最初の果実をお披露目した。アマゾンのエコーに対抗するためのスマートスピーカー「グーグルホーム」と、メッセージアプリの「Allo(アロ)」である。その両者を支える新サービスが、グーグル独自の対話型コンピューティング「グーグルアシスタント」だ。

これはいわば「検索3.0」である。すなわち、グーグル検索とコミュニケーションを取るための新たな方法なのだ。利用者はグーグルアシスタントを使ってチケットを取ったり、航空券を予約したり、音楽をかけたり、スケジュールを立てたり、メールに返信したりできるようになる。

また、グーグルアシスタントは母の日が近づけば花の注文を、出張の前には荷造りを促すようになるかもしれない。つまり、あなたの電話やスピーカー、テレビ、車、時計などの中に“待機”し、最終的にはあらゆる場所で助けてくれるのである。

「日常生活のなかで、周囲のモノが私たちの手助けをしてくれるのです」と、ピチャイは言う。この「アシスタント」が潜在力をフルに発揮するまでにはまだ何年もかかるだろう。それにこれを完成させるのは、ペイジと共同創業者のサーゲイ・ブリンが検索エンジンを生みだしたこと以上に難しい事業になるはずだ。ピチャイもこう言い添える。

「あらゆる面でこちらのほうが野心的ですよ」

とはいえ、アロの発表は、グーグルがメッセージサービスの分野で地歩を固められずにいることを浮き彫りにした。また、グーグルホームからわかるのは、同社の誰ひとりとしてスマートスピーカーの波が来ることを予期できていなかった現実である。だから、アマゾンの後追いになってしまった。

これらの問題は、ピチャイがグーグルのCEOとして直面する大きな困難のひとつを象徴している。グーグルがAIや機械学習(マシンラーニング)のような複雑なテクノロジーに長けているという点に異論はない。しかし、そうした技術を“ヒット商品”に変えることにかけて、同社が必ずしもトップクラスでないのは確かだ。

「グーグルにとってのリスクは、高度なAIを扱う能力があるために、かえって『そこそこ良い商品』を生み出す機会を見逃してしまうことです」と、オライリー・メディアのティム・オライリーCEOは語る。
 
それに加えて、メッセージがボットやその他のデジタルサービスの新たなプラットフォームになるなら、グーグルはそうしたサービスを早急に用意する必要がある。フェイスブックやマイクロソフト、アマゾン、そしておそらくはアップルも開発に乗りだしている。

「外部開発者が皆、最後まですべてのプラットフォームを等しく利用するとは限りません」と、ハーバード・ビジネス・スクールでIT業界を研究するデビッド・ヨフィー教授は話す。

「どのサービスが最も成功するかー。それがカギになります」

ピチャイの仕事は、その答えがまちがいなく「グーグル」になるように努める一方で、約6万人の従業員と年間750億ドルの売り上げをもつ会社を切り回すことだ。グーグルのCEOにはこの膨大な責務が課せられているからこそ、ペイジは後継者の“外見”ではなく、“中身”を重視したのだろう。

ピチャイの「しなければならないことリスト」の筆頭にくるのは、検索やアンドロイド、グーグルマップ、ユーチューブ、グーグルプレイといった幅広い分野にまたがるデジタル帝国から、確実に収益を吸い上げていくことだ。ほかにも、「アンドロイドを導入している企業との結びつきを保つこと」「アンドロイドとクロームを統合すること」「欧州その他の地域で課される独禁法や税法上の調査に対処すること」などの項目がリストに並ぶ。
 
それでも、ピチャイは「グーグルを変身させる用意はできている」と言う。

「私個人の考えでは、あらためて我が社のミッション、それと機械学習やAIを通じて会社を変革することに集中したいと思っています」
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文=ミゲル・ヘルフト、翻訳=町田敦夫

この記事は 「Forbes JAPAN No.26 2016年9月号(2016/07/25発売)」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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