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2016.08.10 08:30

不確実性を嫌うウォール街が注視する大統領選の行方


また、自由貿易が果たす役割に大きな懸念が生まれていることも、新たな潮流だ。米中流層の多くが、置いてきぼりを食らっていると感じている。外国との競争で仕事を奪われ、賃上げも阻まれている、と。米世帯の平均所得は、2000年当時より4,000ドル減っている。ドナルド・トランプのような候補者が有権者の支持を得ているのは、そうした理由によるところが大きい。彼は、自由貿易の撤廃や最小化、再交渉を表明している。

トランプもヒラリー・クリントンも環太平洋経済連携協定(TPP)に反対している。非常に多くの米国人が賃金の伸び率に憤慨しているからだ。TPPには多くの利点があるが、それを国民に明確に示すのは至難の業だ。賃金が上がらないのに、「お得な価格で製品を買えるようになりますよ」などと言っても、説得力がない。安く買える理由の一つが外国の廉価な労働力だということを国民に納得させるのは非常に難しい。

ーウォーレン・バフェットによれば、米国経済は正しい方向に進んでいる、と。トランプ大統領が誕生しても、変わらないと思いますか。

ソーキン:長期的に見れば、米経済の堅調さは続くだろう。だが、その過程では問題が起こりうる。大統領は問題を解決するだけでなく、問題を引き起こすこともあるからだ。トランプが大統領になっても米経済が正しい方向に進むかどうかはわからない。彼が国内外で信頼関係を構築できるかどうかがカギだろう。

ーウォール街が支持している候補は?

ソーキン:一般的に言えば、クリントンだ。オバマ大統領の政策に酷似したものになると思われるからだ。ウォール街は不確実性を嫌う。クリントンは「継続」をもたらすものと見られるため、好まれる。もちろん、ウォール街にも、トランプを支持する共和党員もいるが。

ートランプは金融規制改革法「ドッド・フランク法」の撤廃を公約しています。ウォール街へのチャーム・オフェンシブ(アピール攻勢)なのでしょうか。

ソーキン:もちろん。また、彼は、本当にそうしたいと考えている。議会の承認が必要なため、大統領が提案しても撤廃は困難だが、可能性がないとは言えない。

Andrew Ross Sorkin アンドリュー・ロス・ソーキン◎米国一影響力のある金融ジャーナリストで、「ニューヨーク・タイムズ」コラムニスト。

文=肥田美佐子

この記事は 「Forbes JAPAN No.25 2016年8月号(2016/06/25発売)」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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